エピローグ 新しい日本の仕事力に向けて

「仕事」がより“経営”色を帯びてきた

一人前の企業人として求められる仕事力とは何か――プロジェクトの端緒を開く今回の調査で明らかになったのは、大きくとらえれば「仕事を動かす力」が重要であるという点で、人事担当者の見方がほぼ一致していること。そして、そうした力の低下に関して、また多くの人たちが問題を感じているということである。

ここでいう「仕事を動かす力」とは、自分の仕事や役割、組織の中での位置付けを理解・把握し、自律的に仕事を“プロデュース”することができること。さらに、それらを具体的に動かしていく、あるいは動き続ける組織のミッションに貢献するために、他者との関係の中でうまく“巻き込み・巻き込まれる”力を発揮していくこと――と整理できる。守島氏がインタビューで分析されたように、それは「経営」の二つの側面、戦略の策定と実行という動きとまさに符合し、一人前の企業人に求められる“仕事の形”がその規模の大小こそあれ、より経営的な色彩を帯びる方向に変化している実情を示しているといえるだろう。

仕事力の低下――「力」を育む環境の変化

一方、多くの人が「仕事力が現在低下している」と感じているアンケート回答の背景には、二つの要因が考えられる。一つは、こうした仕事の在り方の変化に対して、個人のスキル・資質的な部分や企業としての育成施策面も含めて、求められるレベルへのキャッチアップが十分できていないということ。そしてもう一つは組織を取り巻く構造的な変化の中で、経験を通じて仕事力を育む環境が損なわれているのではないか――という問題だ。

とても素朴な言い方になるが「仕事を動かす力」は「仕事を動かす経験」なくして身に付けることはできない。それは必ずしも、何らかのリーダーシップをとるということに限らず、少人数または個人の単位であっても、与えられたミッションの目的・成果を見通し、関係する社内外の人々との関係調整を図り、より円滑な手段を選択・実行していくこと――そのサイクルを動かしていくことが「経験」そのものだ。

こうしたシステムを具体化したものこそ、多くの企業が取り入れている目標管理の仕組みである――という人も少なくないだろう。しかし、成果主義的な評価との連動で取り入れられた目標管理システムが、経営者の思惑とは裏腹に、失敗やチャレンジをむしろ歓迎しない方向で運用されている例も少なくないことは、現場リーダーや人事担当者も本音として知っているはずだ。

組織の疲弊が「成長」の先行きに影を落とす

また、いまの組織の中に目を転じるとどうか。若手とベテランの間で教え・教えられ、経験を積み重ねて仕事の幅を広げて成長を促してきた組織の土壌が失われつつある企業も少なくない様子だ。現に、酒席の場までOJTを展開していた団塊ベテラン層の多くが去り、人員と採用が絞られたフラット組織の中で、後輩指導の経験すら少ない人々にマネジメントが委ねられる。その肩には時に、マネジメント以上の重さでプレーヤーとしての成果期待がのしかかる。マネジャーを見上げる部下の目線の先には、「仕事ができる」魅力的なキャリアロールモデルの姿はなく、疲弊しながら頑張り続ける人々への不安ばかりが映っているのではないか。

「仕事を動かす力」を生み出す土壌である組織の疲弊と不安。取りも直さず、それらはいま「人材の成長」の先行きへの不安にもつながっている。

仕事力を生み出す「組織の活力」を どう再生するか

人材育成の目的は、個の社員の能力を高めること――それには何らの異論もない。では、ここでいう仕事力を高めるために、これから何が重要になってくるのだろう。個が知識に接し、教室で実践を体験するOff-JTももちろん大切だ。しかし、その先にある、本当の実践の場である組織・職場に活力と機会が満ちていなければ「仕事を動かす力」を高めることはおぼつかないだろう。アンケート回答でも、仕事力の向上には「組織や風土を変えていくことがなければ始まらない」という意見が少なからず上がっている。

メンバーのチャレンジを引き出す現場リーダーのマネジメント、上司・部下間にとどまらず、役割を分担するメンバーがお互いを巻き込み・巻き込まれる人間関係、それを支える豊かなコミュニケーション――こうした組織がつながり合う企業の中で、伝統的ともいえる「経験」を通じた育成施策、OJTやジョブローテーションにも新たな形が見えてくるだろう。

そのために、企業や人事担当者、現場リーダーが何を変えていくべきか、これからのプロジェクトでその姿をより明らかにしていきたい。

トップページへ

ページトップへ

ページトップへ