企業にとって最も重要な資産は「人」。このことに異議を唱える人は少ないだろう。だからこそ人材育成を、となるわけだが、では、そもそもどのような能力を備えれば人は育ったということができるのだろうか。
今回のプロジェクトを始めるに当たって、私たちは、まずこの点をはっきりさせることから始めることとした。企業において仕事をするにあたって必要な能力。一人前の企業人と呼ばれるにふさわしい力。それを人々はどのようにとらえ、認識しているのだろうか。
予断を防ぐため、アンケートはすべて自由回答で記入して頂いた(表1参照)。回答者は労政時報をご購読いただいている人事関連の仕事をされている方々265名。所属企業は従業員規模100名未満から3,000人以上まで、役職も一般職から部長以上まで幅広い方にご回答いただいている(図1/2参照 回答者所属企業分布および役職分布)。
また、予め申し上げておくが、文章中で掲示したグラフの集計は、自由回答を内容の類似性からアフター・コーディング(※)して実施したものであり、回答内容の解釈によってかなりのブレが出てくる。その意味では、選択肢に基づく集計とは異なり、かなり編集部の主観が入った数値化でしかない。その限界をご理解の上で、あくまで概観を把握するための一つの参考としてご覧いただければ幸いである。
(※:アフターコーディングとは、自由に記入された回答を文意や単語によって分類し定量化する調査分析手法のこと)
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- 設問1
- あなたの会社で、新卒入社から若手の段階を卒業して、「一人前」になろうとしている人を思い浮かべてください。すでにいくつかの仕事を経験し、これからさらに新しい仕事が待っています。あなたは、この人にとって必要になる「仕事力」とはどのようなものとお考えになりますか?
(もちろん正解・不正解はありません。お考えのままにお答えください)
- 設問2
- あなたの会社や取引先でも、おそらく、「普通に仕事がこなせる人」が多くを占めていると思います。それでも、若手に限らず時には管理職に対しても「普通はこうやるだろう」とか「なぜこうしないのか」など疑問を感じることがあると思います。仕事の段取りでも出来栄えでも結構です。こうした疑問を感じる機会が実感として増えているか、以前と変わらないかをお答えください。また、「増えている」と感じられる場合、その理由と思われることをいくつでも挙げてください。
- 設問3
- これからご自分が、または同僚や部下、あるいは会社全体として「仕事力」を高めていくためにはどのようなことが必要だとお考えですか。
またすでにそうした目的で、会社や職場として(または人事部門で)取り組み始めていることがありましたら、併せてお答えください。

人事の目から見た「企業で働くための仕事力」とは。では、さっそく、見ていくこととしよう。

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第一問は「企業人として一人前の仕事力」を問う質問である。どのような能力があったら、若手を卒業し、その企業内で一人前として認められるようになるのだろうか。
個別の表現は様々であったが、大きくいうと、回答は二つの能力「仕事の全体を把握していく能力(全体把握力)」と、それを踏まえ「社内外の人々の関係を調整し、仕事を回していく能力(関係調整力)」に集中する傾向が見られた(図3)。
一方、報連相や業務上の知識などのビジネスの基本的なスキル、あるいはチャレンジ精神や素直さなどの心構えは、一人前以前の能力と判断されたのか、相対的に回答数が少なかった。


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全体把握力に分類された回答群から代表的な内容をみてみよう。「自分の仕事を語る時に、自分がやっている具体的な行為ではなく、仕事の目的と現状レベルと改善ポイントを語れることが必要」、言い換えるなら「今やっている仕事に対する意味を自分の意思を持って答えられるようになること」(※)。つまり、与えられた仕事をそのままやるということではなく、その仕事にどんな意義があるのか、自分なりに咀嚼する力が重要だということである。
※イタリック体は回答文からの引用。以下同様。
そしてこれを実現するためには「自身の担当の仕事が、部署の業績、ひいては、会社全体の業績とどのようにリンクしていくか」をとらえる視野、「具体的行為から抽象化し、また抽象から具体化することを繰り返す」ロジカルな思考力、そして「与えられた業務に対し、当事者意識を持って積極的に自分のこととして取り組む」姿勢が必要となる。こうした能力があって始めて「仕事をプロデュースする」こと、つまり自分なりの判断で業務を調整し、改善し、一人前の企業人として自律的に仕事をしていく前提が整う。

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全体把握力があっても、それだけで仕事は回っていかない。企業の仕事とは社内外の多くの人との協力・協調があって始めてうまくいくものだからだ。この点を指摘しているのが「関係構築力」である。
仕事には、まず、ネットワークが必要となる。「社内外問わず、自ら他人に働きかけ積極的にコミュニケートし、人間関係を構築する力」。「社内人脈作り(タテ・ヨコのパイプ作り)と対外的人脈作り(顧客・ライバル)」。こうしたネットワークがあり、そして「社内外を問わず周囲の人間を巻き込んで、自分の思いと人の思いを融合させながら物事を進めていく力」があってこそ、始めて本当の仕事ができる。「自分の知識・能力の枠を超えた成果をだすためには、社内/社外のリソースをうまく活用することが」必須だからだ。
一人だけの力では、たとえどんなに個人的な能力が高くても、ある程度以上のレベルの仕事をこなすことはできない。「巻き込まれ上手であり、かつ、巻き込み上手であること」こそが、企業において、仕事ができる人の条件なのである。

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誤解してはならないのは、今述べてきた全体把握力と関係調整力は決して二つの分離した仕事力の要素ではない、ということだ。
全体を見通し、仕事の意義を考える作業の中には、当然、「自分が会社組織の中で何ができて、何に貢献できるのか」、つまり人の関係性の中で自分の位置を見定める行為が入ってくるし、関係調整力の中には「業務の利害関係者の気持ちに配慮」した段取り力、言い換えるなら全体の流れの中で関係を考える能力が含まれる。実際、全体把握力と関係調整力の双方に関わる(両方に取れる)回答をした人の比率は全体の22.2%に上る(図4)。

※この図は、自由記入で言及されていた内容を,上記三つの要素に再整理し,さらに複数の要素について言及していた人数・割合とその重なり具合を概観したもの。考えてみれば当たり前のことだが、一つの仕事を行うということは、規模の大小はあれ、一つの現場を回すということにほかならない。当然そこには全体を見渡し、適切な目標と手順を設定するプランニング能力と、そのために他の人に動いてもらうマネジメント能力の二つが必要となる。マネジメントを欠いたプランニングは机上の空論に過ぎないし、プランニングなしのマネジメントは、ただの暴走にしかならないだろう。
では、こうした能力、プランニングとマネジメントが合わさった仕事をプロデュースしていく力=仕事力は、今の日本企業で確実に育っているのだろうか。次はそれについて見ていこう。





















