

高間邦男氏(株式会社
ヒューマンバリュー代表取締役)
企業の現場において、本来最も重要なはずである上司と部下の、先輩と後輩の、そしてチームの仲間同士の対話が失われているのではないか。そして、そのことが、仕事力の低下に大きな影響を与えている。これが、今回のビジネスパーソンを対象にしたアンケートと、先に行った人事担当者へのアンケートから共通してみられる課題認識である。では、この課題にどのように対応すればよいのか。
今回は組織活性化のプロフェッショナルで、国内外の人材育成の動向にも詳しい(株)ヒューマンバリュー代表取締役高間邦男氏にお話をうかがった。


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仕事力とは、物理学的にいうと「自らのエネルギーを注ぎ込むことで価値を生み出す力」のことだと思います。また、アンケート結果を見ると、"仕事力がある"とは、@仕事の意味が分かること、A何をすべきかが分かること―と言えそうです。「軸がぶれない」「自分流の仕事の流儀をもっている」というふうにも表現できるでしょう。
「具体的には、仕事の全体を見通して何が重要かを見極める「戦略力」が仕事力の要としてとらえられています。個人としての優秀さや専門性も指摘されていますが、それだけでなく、トラブルなくスムーズに仕事を進められる「段取り力」や、関係者と円滑に仕事を進める「調整力」を重視する回答が多いことも注目されます。
現在のように、社会全体の複雑性が高まっている状況では、従来のやり方や、組織の一部の人間だけで正解を導き出すことが難しくなっています。このよう中では、全員が参画して新たな価値を創り出していく「共創的なアプローチ」が必要です。仕事をするうえで、全体を見渡して本質を見抜く力だけでなく、人と協働できる力が重視されているのは、その表れのように思います。

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アンケートでは、仕事力を高める要因として、コミュニケーションの多さや上司のかかわり、しっかりとした指導などが挙げられています。これは、マニュアルやテキストでは身に付かない力、言い換えれば「体験」や「人と人との相互作用」でしか獲得できない力が重要になっているとも読み取れます。そのことに多くの企業がいま、気づきつつあるのではないでしょうか。
ところが現実には、企業内でのさまざまな体験の積み重ねや人々の相互作用そのものが減ってしまっています。そこが仕事力の低下として表面化しきているのだと思います。

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ではどうすればいいのか。その一つのやり方が「皆が学び合っている」という環境をつくり出すことです。例えばOJTでも、特定の人が特定の人を教えるという閉じた関係で行うのではなく、教える人、教えられる人を、周囲の皆で支え、職場全体で学び合うという図式にすることです。
いままでの教育は、いわば「個人個人に何かを注ぎ込んで強くしていく」という方法でしたが、そうではなく、これからは「生態系的」にとらえていかなければなりません。集合研修でせっかくやる気が出たのに、自分の机に戻ってきたら上司が一方的に命令するだけであるとか、誰も自分の思いを聞いてくれないとか、そういう職場ではせっかくの「学び」が生かされません。その意味では、全員が話し、全員が聞き合う―そういった環境まで含めて、トータルに教育を設計していかなければ成果が出てこない。そんな状況になっています。


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これまで企業が働く人に取っていたアプローチはいわば「スキル偏重型」だったと言えます。それがいまでは「仕事の意味をきちんと見付けてもらう」というアプローチに変わりつつあります。価値が多様化する中では、仕事の価値や意味を一方的に押し付けることはできません。どんな価値を伸ばし、また大切にしたいのか。それを一つ一つ見付けていく作業を個人もしくは組織全体で行っていくことが必要になってきました。すなわち、一人ひとりの価値をどう活かすことができるかが問われるようになってきたわけです。そういったことを個人でできなければ皆が手伝い、支える。それこそが仕事力を高める基本で、スキルは後から付いてくるものだと認識している企業が増えているように思います。
これからは、皆がつながっているという「場の力」を確認し、その中からどんな夢、ビジョンがあり得るのかをお互いが共有し合い、元気を出して、前に進んでいくということが必要だと思います。

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心ある企業は経営者と社員との対話を始めています。一方的なビジョンの上意下達ではなく、ゼロベースからの、双方向的でかつ、本質的なことを語る場です。「そんなことができるのは、ゆとりのある企業だけだ」という見方があるかもしれませんが、それは決してゆとりでも何でもありません。彼らはそこから始めなければ、新しい価値が生み出せないと考えているのです。
よく言われていることですが、「哲学」と「哲学する」は違います。「哲学」とは本を読んだりすることですが、「哲学する」とは対話をし続けることです。いま企業に必要なのは「うちのビジョンや理念って何だろう」と終わりなき対話をし続けることではないでしょうか。その繰り返しを通じて、いま求められているもののコンテクスト(背景)が伝達され、その中で社員一人ひとりが自分自身の"振るまい"を見出していく。それでよいのだと思います。
ビジョンや理念を皆で問い続け、対話し続けること。その中で人は育っていき、考えるようになってくるのだと思います。

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そこで大事になってくるのが「物語」です。ここでいう物語とは、どういう行いが、推奨され、また自分たちにとって価値があるのかを示しているものです。いま伸びている企業の職場では、こうした物語の共有を重視しています。社員が集まって夢を共有し、さらに、リアルタイムで自分たちの物語を共有し確認していく。そういうプロセスを大切にしています。
アンケートでは仕事力を高める要因として、コミュニケーションの多さや入社当時の上司の在り方、職場の連帯感などが指摘されています。まさにこれは社会構成主義的学習論[参考]の考え方です。仕事への想いや、取り組み姿勢、流儀というものは、なかなか自分一人で獲得できるものではありません。危機感がそれを促すこともありますが、優秀な上司と出会ってその影響を受けることができるか、あるいは、集団としての相互作用のなかで見つけられるかがカギになります。
- 参考:「社会構成主義的学習」とは?
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・・・経験や周囲の人との相互作用の中での学び
【特徴点】
協同性:有能な学習者も1人では存在できず相互作用が重要
自立性:学習者が主体的に知識を構築する
内省性:間違うことから自分自身で点検し探索をする
積極性:自分のやりたいことを積極的に外界に働きかける
関係性:学ぶ知識と学習者とのかかわり合いや状況を重視する
多様性:考え方の異なる他者とのやりとりが理解を深める

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ただ、誰もが優秀な上司に出会えるわけではありません。そのため、組織の中にそういう人たちとの出会いの場をつくることが必要になってきます。あるいは、仮に優秀な人がいなくても、皆で集まり話し合って確認すると、集団的に腑に落ちるということがあります。言い換えれば、集団としての感受性を高めることが大切で、人はそうした中で育っていきます。今後はこのように、集団の力を活用していくことが企業にとって重要です。
例えば、1万人の企業でも、自分の仕事を直接相談できる相手は、社内に30人くらいしかいないと思います。問題は、この30人をいかに広げて、1万人にアクセスできるようにするかということです。30人のリソースでは実現できない夢も、1万人いれば実現可能性が高まります。つまり、夢や何らかの想いを持っている人にそれを孵化させることのできる場を与え、仲間との出会いをもてるようにすることが、成果を生み出すうえでも、人を育てるうえでも大切なことだと思います。

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具体的には実務以外のワーキングチームや実践共同体(CoP:Community of Practice)のような場が考えられますが、ポイントは、社内に多層化したコミュニティをつくるということです。かつては企業内にも県人会や趣味の会など、コミュニティが多層的に存在しましたが、いまではそれが少なくなっており、結果として、人と人との出会いや相互作用が起こる機会が減っています。
ある医療系メーカーでは社内の茶道研究会での雑談が全社的イノベーションのきっかけになりました。また、別の研究所のケースでは、社内にいる数学専門家のヒトコトで世界的な圧縮技術のブレークスルーが起こりましたが、それは社内食堂での出来事です。そういうセレンディピティ(偶然性)が起きるような仕掛けを会社の中につくっておくことが、いまの時代は特に求められていると思います。


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確かに、社員一人ひとりの想いや経験を具体的に把握できるのは現場の管理者しかいません。人事は仕掛けをつくることはできますが、実際に行うのは現場の管理者です。だから人事は、現場の管理者が社員一人ひとりをきちんと見て、話をして、サポートしていく制度をつくらなければなりません。
例えば、評価者会議を、単に点数を分け合う場とするのではなく、上司同士が部下一人ひとりの経験や想いを共有する場として機能させることなどが考えられます。従来、人事は、そういう場では業績という単一の尺度で語ることを要請してきましたが、社員自身は業績だけを指標にして働いているわけではありません。むしろ、実現したい仕事の価値や意味こそが重要であり、この価値に対して、現在携わっている仕事がどういう意味があるのか、その意味づけをすることが上司には求められています。
評価面談などでも、部下に対し、単に評価がどうであるかを伝えるだけでなく、よかった点を具体的に指摘したり、今後どのようなことをやっていくことが本人の成長につながるのか、あるいは、将来に向けてこの仕事のここのところが役に立つのではないか――といったことを話すこと。そして、それを紙やデータベースに残していく。こういう積み重ねが現場の仕事力を高めていくのだと思います。

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一方で、人事自らも役割を再定義する時期にきているのではないでしょうか。「業績のPlan-Do-See」のチェックに力点を置くのではなく、「人材育成のPlan-Do-See」にもっと関心を持つべきだと思います。そうすることで、業績を上げたかどうかを確認するだけの、事業部の下請けのような人事評価ではなく、その企業の組織文化や人材をどう育てるかに関わる人事評価に変えていくことができるようになるはずです。
いまの時代は、たとえ業績評価を一生懸命に行っても給料がたいして上がるわけでもなく、役職も上がりにくい。つまり、このやり方は管理者にとっても社員にとっても面倒くさいだけになってしまっています。このようなことからも、人事はもはや業績評価を軸にするのではなく、育成に傾注するべきと言えるのではないでしょうか。
実際に社員の立場で考えても、自分が育ったかどうかのフィードバックは欲しいでしょうし、組織から承認もされたいというのが本音でしょう。

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そのとき重要なのは、何をフィードバックすることが必要なのかを、人事が現場に分かりやすく伝えることです。人材育成を評価軸の中心にすると、業績だけをみているときとは違って、日々社員一人ひとりを見て、その想いを把握していないと評価ができなくなるということを、現場の管理者にきちんと伝えなければなりません。こういうことを実践するだけで「いい上司がいない」とか「コミュニケーションが職場にない」という問題は解決していくのではないでしょうか。
これらの積み重ねの結果として、職場の「生態系」ができていくとのだ思います。制度の下支えに皆の想いが積み重なっているという形は、職場を「トータルな生態系として統合的にとらえていく」ことで、はじめてうまくいくのだと思います。

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その意味でも重要なことは、人材育成を「個」でとらえるという視点です。従来の人材育成は、入社何年次とか新任課長研修といったヒエラルキー的な層でとらえていました。そうではなく、一人ひとりが入社後どういうパスをたどってきたか、いま何を目指しているのかといった「個」で追いかけていく人事に変えていく必要があります。
近年データベース技術もしっかりしているので、一人ひとりのデータを蓄え、それぞれの体験や想いを把握しながら成長の機会を与えていくといったことにもトライできるはずです。一人ひとりがどんな価値をもち、どんな経験を持っているか。それを現場と人事が共有することが大切です。
個の経験や想いの集まりこそが全体であるという認識を、人事が持ち得ているかが問われる時代になっているのだと思います。


