調査レポート:現場は仕事力をどうとらえているか?ビジネスパーソン・アンケートに見る仕事力認識

仕事力とは「全体を見通す力」と「関係をつくる力」。そして、こうした仕事力は、何より、活力のある職場で働く経験を通じて生まれてくる――Session1で実施した労政時報クラブ登録者へのアンケートでは、企業の人事担当者が仕事力について持っているこうした認識が浮き彫りとなった。

この疑問を解くため、今回、仕事力プロジェクトSession2では、「過去1年間継続的に働いていた方」に対し、仕事力についてどのような認識を持っているかを問いかけるウェブ・アンケート調査を行った。 対象は20代から50代までの男女計831人。うち69.6%が正社員/正職員、7.8%が嘱託/契約社員、20.6%がパート・アルバイト、残りの2.0%が自営業・自由業。正社員/正職員の中には、係長級が17.0%、課長級が16.1%、部長級が7.6%含まれている。また、従業員規模も30人未満から1000人以上まで分布しており、いま日本で頑張っている現役のビジネスパーソンを代表するサンプルとなっている。
では、彼ら/彼女たちは、仕事力をどのようにとらえているのだろうか。その結果を見ていくこととしよう。

仕事力のイメージとは

仕事力ある企業ランキング、1位は「組織力」のトヨタ

「仕事力がある」というのは具体的にどういうことだろう。どんな企業、あるいは人が「仕事ができる」というイメージになっているのだろうか。まずは、この単純な問いから、人々の意識を探ってみよう。

まずは企業。自由記入で「仕事力がある」と思っている企業名を挙げてもらったところ、1位はトヨタ自動車。次いで2位ユニクロ、3位パナソニック、4位ソニー、5位ソフトバンクという結果となった。特にトヨタは,男女とも回答者の1割以上が支持。大差での首位となっている。

理由を見てみると、トヨタでは、「高度な技術力と部品調達価格の低減および生産コストの低減により、世界で認められていること。また、ISOなど問題にしないトヨタ規格を持っていること」「工場の現場でカンバン方式や社内の表彰制度で工夫を凝らし、生産性の向上に努めていることがすごいと思う」など、カンバン方式に代表される組織力を指摘する声が多い。また、「リコール問題を乗り越えたから」という危機への対応を理由とした回答も多く見られた。ほぼ同じ回答傾向となっているのが3位のパナソニックで、ここも組織全体としての顧客対応力やリコール問題への対処が仕事力を感じる理由に多く挙がっている。

これに対し、ユニクロ、ソフトバンク、楽天などの国内企業、Apple、Googleなどのアメリカ企業については、その勢いと革新性を指摘する声が多かった。経営の革新性で急激に成長を続けている企業群を押さえ、高い組織力を備えたトヨタとパナソニックが、仕事力イメージで上位をキープ。
まとめてみると、こうした傾向を、企業の仕事力ランキングに読み取ることができるのではないだろうか。

※イタリック体は回答文からの引用。以下同様。


個人ランキングは、イチロー、たけし、紳助

一方、個人のランキングは、イチロー、北野武(ビートたけし)、島田紳助が、僅差で1位、2位、3位に並ぶ結果となった。次いで少し離れて4位明石家さんま、また少し離れて5位星野仙一となる。

仕事力のある有名人

イチローの理由は、常に結果を出し続ける力とそれを支える自己管理力。WBCの際に印象的だった熱いリーダーシップを挙げる声も多かった。
チームや周りとの関係性を指摘する声は、実は、たけし、紳助、さんまの回答内容でもかなり多い。「個人の資質のようでいて、他人との関係を大切にしているから」(たけし)、「番組やプロジェクトを企画・立ち上げて軌道に乗せている。そこに持っていくまでの関係者や関係部署への立ち回り方や行動力に並外れたものがあると思う」(紳助)、「相手の反応を敏感に受け止め、臨機応変に対応」(さんま)。
個人の才覚はもちろんだが、それにとどまらず、周囲を巻き込んでいく力を発揮できているかどうか。それができてこそホンモノの仕事力、ということになるだろうか。

重要なのは、巻き込み、巻き込まれる力

上記の企業ランキング、個人ランキングの背景にある、ビジネスパーソンの仕事力に対する認識は具体的にどうなっているのだろうか。まず、どんな力があれば「仕事力がある」と思うのか。その因子を見てみよう。

図5:仕事力のイメージ(複数回答)

戦略力
本当は何が必要か、そのためには何をすればいいかを的確に判断できる「戦略力」
個人としての優秀さ
ひとりで手早く様々な課題をこなしてしまう「個人としての優秀さ」
専門家としての力
非常に高度な知識、専門的なノウハウを持っている「専門家としての力」
段取り
トラブルなくスムーズにそれぞれの仕事を管理し、進めていくことができる「段取り」
調整力
取引先、お客様、上司、部下などの関係者と円滑にことを進めていく「調整力」
堅実さ
言われた/与えられた仕事を着実にこなしていく「堅実さ」
主体性
どんな仕事も自分のものとして捉え、当事者として責任感をもって実現する「主体性」
リーダーシップ
周囲の様々な人を巻き込み、チームとしての力を発揮させる「リーダーシップ」
コミュニケーション力
日ごろの情報共有がスムーズに出来る「コミュニケーション力」
職人性
ひとつのことを突き詰めて完成度を上げていく「職人性」
人脈力
使える人間関係を作り出すことができる「人脈力」
向上心
設定した目標に向かってチャレンジする「向上心」

全体の48.9%が回答しているのが、「本当は何が必要か、そのためには何をすればいいかを的確に判断できる『戦略力』」。次いで「ひとりで手早く様々な課題をこなしてしまう『個人としての優秀さ』」(37.2%)、「非常に高度な知識、専門的なノウハウを持っている『専門家としての力』」(36.3%)が並び、「トラブルなくスムーズにそれぞれの仕事を管理し、進めていくことができる『段取り』」(29.6%)、「取引先、お客様、上司、部下などの関係者と円滑にことを進めていく『調整力』」(27.2%)と続く結果となった。

興味深いのは、個人として仕事をこなしてしまう優秀さや専門性を押さえ、仕事の全体を見通して何が必要かを見極める「戦略力」が1位となっていることだ。また、「段取り」や「調整力」のスコアもかなり高い。このあたりのモノの見方が、単に個人としての才覚があるのではなく、全体を見通し、周囲を巻き込んでいく力を持っているタイプの有名人を「仕事力のある人」と感じさせる背景になっているのではないだろうか。

一方、職人的な在り方については、「ひとつのことを突き詰めて完成度を上げていく職人性」(7.9%)と、ほとんど評価されていない。何ごとも「道」として突き詰める求道精神こそが「もの作り」大国の日本を支えてきたのだ、という説をよく聞く。だが、この結果を見る限り、必ずしもそういった受け止め方は一般的ではないようだ。 求道精神より、戦略力――どうやら、これが、21世紀の日本における「できる人間像」のようである。

仕事力は組織・職場から生まれる

ビジネスパーソンの仕事力についての考え方を吟味するためには、個人としての仕事力を見ていく因子だけではなく、個人と組織、働く人と職場の関係についてどうとらえているかについても押さえていく必要がある。人は一人で仕事をしているわけではない。誰もがこのことを前提に考えているはずだからだ。
この点を見ていくために実施したのが、下記の価値観質問である。

図6:仕事力についての価値観を尋ねる質問 その1

一目見て分かるように、ほとんどの人が、仕事力は一人で発揮できるものではない、と強く認識している。周囲との緊密なコミュニケーションがなければいい仕事はできないし(「コミュニケーション量の多さは、高い仕事力を生み出すベースとなると思う」人72.9%)、そもそもいい職場でなければ、中にいる人が優秀でもいい仕事などできるわけがない(「どんなに優秀な人が集まっていても、いい組織でないと高い仕事力は発揮できないと思う」人63.9%)。だから、職場を愛し、周囲の人を愛する気持ちは重要だ(「職場への帰属意識や一緒に仕事をしている人との連帯感、愛社精神は高い仕事力に繋がると思う」人65.6%)。

個人としての視点で見た場合、仕事力とは、全体を見渡す戦略力を中心としつつ、個人の才覚と周囲への段取り・調整力を合わせたものとして意識されてくる。だから、イチローやたけし、紳助のように、才能があり、かつ全体をプロデュースし、周囲を巻き込んでいく実績を持った有名人が仕事力ランキングの上位に入ることとなった。

一方、全体を見渡す視点から見ると、一人ひとりの個人だけがバラバラにいても、決して仕事はうまく回るものではない。そう思うからこそ、企業の仕事力ということでは、勢い/成長性に加え、組織力の有無が気になる。確かに、現状はユニクロやソフトバンク、もっといえば天才的な人材を多く抱えるといわれるAmazon、Googleが圧倒的なのかもしれない。でも、「仕事力がある」というなら、やはり世界に冠たる生産組織を生み出したトヨタは外せないのではないか。

現場は仕事力をどうとらえているか?ビジネスパーソン・アンケートに見る仕事力認識

仕事力を育てるためには

仕事力は重要だが、現状は衰退気味

仕事力を巡る昨今の現状を、ビジネスパーソンたちはどのようにとらえているのだろうか。まず、仕事力という観点が日本企業の今後にとって重要かどうかという問いについては、87.9%の人が「重要と思う」と回答している。では、現在の日本で仕事力が向上しているかというと、47.5%が衰退気味と答えている一方、逆に向上しているという回答は10.2%にとどまっている。この傾向は、年齢が上がれば上がるほど高くなっている。

図7:日本企業の今後にとっての、仕事力の重要性

図8:仕事力のある人は増えているか、減っているか

理由は何だろうか。最も高いのは「部下を育てる上司が減ってきている」の61.0%。次いで「リストラ等で仕事に余裕がない」43.8%、「若い人の社会常識の低下」40.3%。労政時報クラブのアンケート結果と同様、「近頃の若い者」論が少ないわけではないが、それよりも現状の職場の問題ととらえている人のほうが多い。

図9:仕事力衰退の理由(複数回答)

仕事力をつけるのは経験と現場の指導

このごろ日本の企業の仕事力が減退している理由は職場にある。人々がこのように思っていることは、「どうやれば仕事ができるようになるか」という点に関する価値観質問により強く表れている。

図10:仕事力についての価値観を尋ねる質問 その2

「従業員の仕事力を高めるために重要なのは現場でのしっかりとした指導・育成ができる職場づくりだ」と思っている人67.1%。「入社当時の上司の在り様と仕事力の高低は関係が深いと思う」66.0%。「従業員の仕事力をアップさせるためには、基本的に褒めて育てるほうがいいと思う」65.3%。「仕事力をつけるには、教育・学習よりも、経験の積み重ねが重要だと思う」54.5%。

『やってみせ、いって聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ』(山本五十六)。古典的ではあるが、多くの人の気持ちは、いまだこの言葉どおりであると言えるかもしれない。

自分が成長したのも職場での「言葉」と「経験」

価値観質問の回答は、単なる思い込みからの判断ではない。「自分の成長のきっかけ」として回答者が経験してきたことを見ても、まったく同じ傾向を見て取ることができる。

図11:仕事力に寄与した要因(複数回答)

自分が成長するきっかけとなった経験で一番高いのは、「職場での上司からのアドバイス」(27.8%)、2位が「職場での同僚や先輩からのアドバイス」(23.5%)。まず、現場でのコトバが来る。その次に「業務上のいわゆる失敗体験」(21.4%)、「難しい仕事を一人で乗り切った経験」(17.9%)、「難しい課題を皆で乗り切った経験」(14.8%)と自らの体験が続く。
一方、いわゆるOFF-JTは、「読書や自費参加セミナー等」(12.8%)や「社内研修や会社関係のセミナー」(12.2%)と、現場でのコトバや体験に比べ、寄与率が低い。現場を離れた知識は、役に立たないということではないが、決して主役とはならないのである。

ここで注意しておくべきなのは、上記の回答が、決して、単なる体験主義の有効性を示しているわけではない、ということだ。回答数値が示すとおり、まず必要なのは、上司や先輩、同僚などからの具体的なアドバイス、つまり「コトバ」である。ただ仕事をさせる。背中を見せ、後は盗ませる。そういうことだけで人が育つわけではない。現場に共にいる誰かからのコトバ。それがあってこそ、はじめて人は仕事力を身に付けることができる。
職場における対話。現場でのダイアローグ。経験は重要だが、さらに重要なのは、経験の場での一言である。コトバにしなければ/ならなければ、成長にはつながらない。

現場に豊かな対話力を

ビジネスパーソンの多くは、仕事力の源は「単なる個人の才覚ではなく、優れたチーム、活気のある組織」なのだと感じている。だからこそ、仕事ができる人の上位にWBCでチームを引っ張ったイチローやプロデュース力の高い芸能人が並ぶのだし、仕事ができる企業ランキングの上位にトヨタ/パナソニックという組織重視のメーカー名が、直近の業績に関わらず出てくるのである。
仕事力は生き生きとしたコミュニケーションが活発になされている職場、メンバーが高いコミットメントを持っている現場からこそ生まれてくる。そこで現実の体験に裏付けられたダイアローグが上司や先輩と豊かに行われていくこと――これこそが仕事力が育っていく、人が成長を遂げていく最大の源泉となる。体験だけでは足りないし、理論や知識はサポートでしかない。コトバは具体に裏打ちされなければならず、具体はコトバがあってこそ、気付きに、成長につながるのである。

日本企業のこれからにとって最も重要なのはこうした意味での仕事力であり、それが生まれてくる現場である。しかし、ビジネスパーソンの多くがそこに不安を感じている。企業の現場において、本来最も重要なはずである上司と部下との、先輩と後輩の、そしてチームの仲間同士の対話が失われているのではないか。その結果、日本企業の成長に、日本の社会経済の立ち上がりに、一番求められている「仕事力」自体が、いま、逆に一番の危機にあるのではないか。
この危機への応答がなされていないこと。意識だけはあっても、具体的にどのような対応をすればいいのか、その方策が明確とはなっていないこと。これが、今回のビジネスパーソン・アンケートと、人事担当者を中心とした労政時報クラブのアンケートの結果に通じている、仕事力を巡る最大の課題点ということができるのではないだろうか。

インタビュー:「仕事力専門家インタビュー2 高間邦男氏 株式会社ヒューマンバリュー代表取締役」

高間邦男氏(株式会社ヒューマンバリュー代表取締役)
高間邦男氏(株式会社ヒューマン
バリュー代表取締役)

企業の現場において、本来最も重要なはずである上司と部下の、先輩と後輩の、そしてチームの仲間同士の対話が失われているのではないか。そして、そのことが、仕事力の低下に大きな影響を与えている。これが、今回のビジネスパーソンを対象にしたアンケートと、先に行った人事担当者へのアンケートから共通してみられる課題認識である。では、この課題にどのように対応すればよいのか。
今回は組織活性化のプロフェッショナルで、国内外の人材育成の動向にも詳しい(株)ヒューマンバリュー代表取締役高間邦男氏にお話をうかがった。

1.皆が学び合う環境をつくる

高間氏ご自身は、企業を取り巻く環境の変化や求められる仕事力の有り様をどのようにとらえているのか。また、人と人との関係性が希薄になっているという企業内の現状を踏まえて、組織として仕事力を培っていくには何が大切になるかを尋ねた。

「共創的なアプローチ」が必要な時代

仕事力とは、物理学的にいうと「自らのエネルギーを注ぎ込むことで価値を生み出す力」のことだと思います。また、アンケート結果を見ると、"仕事力がある"とは、@仕事の意味が分かること、A何をすべきかが分かること―と言えそうです。「軸がぶれない」「自分流の仕事の流儀をもっている」というふうにも表現できるでしょう。

「具体的には、仕事の全体を見通して何が重要かを見極める「戦略力」が仕事力の要としてとらえられています。個人としての優秀さや専門性も指摘されていますが、それだけでなく、トラブルなくスムーズに仕事を進められる「段取り力」や、関係者と円滑に仕事を進める「調整力」を重視する回答が多いことも注目されます。

現在のように、社会全体の複雑性が高まっている状況では、従来のやり方や、組織の一部の人間だけで正解を導き出すことが難しくなっています。このよう中では、全員が参画して新たな価値を創り出していく「共創的なアプローチ」が必要です。仕事をするうえで、全体を見渡して本質を見抜く力だけでなく、人と協働できる力が重視されているのは、その表れのように思います。

体験や人々の相互作用が仕事力を育む

アンケートでは、仕事力を高める要因として、コミュニケーションの多さや上司のかかわり、しっかりとした指導などが挙げられています。これは、マニュアルやテキストでは身に付かない力、言い換えれば「体験」や「人と人との相互作用」でしか獲得できない力が重要になっているとも読み取れます。そのことに多くの企業がいま、気づきつつあるのではないでしょうか。

ところが現実には、企業内でのさまざまな体験の積み重ねや人々の相互作用そのものが減ってしまっています。そこが仕事力の低下として表面化しきているのだと思います。

職場全体で学び合う

ではどうすればいいのか。その一つのやり方が「皆が学び合っている」という環境をつくり出すことです。例えばOJTでも、特定の人が特定の人を教えるという閉じた関係で行うのではなく、教える人、教えられる人を、周囲の皆で支え、職場全体で学び合うという図式にすることです。

いままでの教育は、いわば「個人個人に何かを注ぎ込んで強くしていく」という方法でしたが、そうではなく、これからは「生態系的」にとらえていかなければなりません。集合研修でせっかくやる気が出たのに、自分の机に戻ってきたら上司が一方的に命令するだけであるとか、誰も自分の思いを聞いてくれないとか、そういう職場ではせっかくの「学び」が生かされません。その意味では、全員が話し、全員が聞き合う―そういった環境まで含めて、トータルに教育を設計していかなければ成果が出てこない。そんな状況になっています。

2.一人ひとりが夢や想いを実現できる場を用意する

今回のビジネスパーソンを対象にしたアンケートでは、仕事力を育む環境として、「場」や「幅広い人とのつながり」が重要であることが見て取れる。高間氏も従来から、組織における「場」や「人と人との相互作用」の重要性について述べられている。なぜ、場やつながりが必要なのか、また企業としては、具体的にはどのように取り組めばよいのだろうか。

一人ひとりの価値を活かす

これまで企業が働く人に取っていたアプローチはいわば「スキル偏重型」だったと言えます。それがいまでは「仕事の意味をきちんと見付けてもらう」というアプローチに変わりつつあります。価値が多様化する中では、仕事の価値や意味を一方的に押し付けることはできません。どんな価値を伸ばし、また大切にしたいのか。それを一つ一つ見付けていく作業を個人もしくは組織全体で行っていくことが必要になってきました。すなわち、一人ひとりの価値をどう活かすことができるかが問われるようになってきたわけです。そういったことを個人でできなければ皆が手伝い、支える。それこそが仕事力を高める基本で、スキルは後から付いてくるものだと認識している企業が増えているように思います。

これからは、皆がつながっているという「場の力」を確認し、その中からどんな夢、ビジョンがあり得るのかをお互いが共有し合い、元気を出して、前に進んでいくということが必要だと思います。

ビジョンや理念を皆で問い続け、対話し続ける

心ある企業は経営者と社員との対話を始めています。一方的なビジョンの上意下達ではなく、ゼロベースからの、双方向的でかつ、本質的なことを語る場です。「そんなことができるのは、ゆとりのある企業だけだ」という見方があるかもしれませんが、それは決してゆとりでも何でもありません。彼らはそこから始めなければ、新しい価値が生み出せないと考えているのです。

よく言われていることですが、「哲学」と「哲学する」は違います。「哲学」とは本を読んだりすることですが、「哲学する」とは対話をし続けることです。いま企業に必要なのは「うちのビジョンや理念って何だろう」と終わりなき対話をし続けることではないでしょうか。その繰り返しを通じて、いま求められているもののコンテクスト(背景)が伝達され、その中で社員一人ひとりが自分自身の"振るまい"を見出していく。それでよいのだと思います。

ビジョンや理念を皆で問い続け、対話し続けること。その中で人は育っていき、考えるようになってくるのだと思います。

自分たちの「物語」を共有し、確認していく

そこで大事になってくるのが「物語」です。ここでいう物語とは、どういう行いが、推奨され、また自分たちにとって価値があるのかを示しているものです。いま伸びている企業の職場では、こうした物語の共有を重視しています。社員が集まって夢を共有し、さらに、リアルタイムで自分たちの物語を共有し確認していく。そういうプロセスを大切にしています。

アンケートでは仕事力を高める要因として、コミュニケーションの多さや入社当時の上司の在り方、職場の連帯感などが指摘されています。まさにこれは社会構成主義的学習論[参考]の考え方です。仕事への想いや、取り組み姿勢、流儀というものは、なかなか自分一人で獲得できるものではありません。危機感がそれを促すこともありますが、優秀な上司と出会ってその影響を受けることができるか、あるいは、集団としての相互作用のなかで見つけられるかがカギになります。

参考:「社会構成主義的学習」とは?

・・・経験や周囲の人との相互作用の中での学び

【特徴点】

協同性:有能な学習者も1人では存在できず相互作用が重要
自立性:学習者が主体的に知識を構築する
内省性:間違うことから自分自身で点検し探索をする
積極性:自分のやりたいことを積極的に外界に働きかける
関係性:学ぶ知識と学習者とのかかわり合いや状況を重視する
多様性:考え方の異なる他者とのやりとりが理解を深める

集団としての感受性を高めることが、人を育てる

ただ、誰もが優秀な上司に出会えるわけではありません。そのため、組織の中にそういう人たちとの出会いの場をつくることが必要になってきます。あるいは、仮に優秀な人がいなくても、皆で集まり話し合って確認すると、集団的に腑に落ちるということがあります。言い換えれば、集団としての感受性を高めることが大切で、人はそうした中で育っていきます。今後はこのように、集団の力を活用していくことが企業にとって重要です。

例えば、1万人の企業でも、自分の仕事を直接相談できる相手は、社内に30人くらいしかいないと思います。問題は、この30人をいかに広げて、1万人にアクセスできるようにするかということです。30人のリソースでは実現できない夢も、1万人いれば実現可能性が高まります。つまり、夢や何らかの想いを持っている人にそれを孵化させることのできる場を与え、仲間との出会いをもてるようにすることが、成果を生み出すうえでも、人を育てるうえでも大切なことだと思います。

セレンディピティ(偶然性)が起きる仕掛けをつくる

具体的には実務以外のワーキングチームや実践共同体(CoP:Community of Practice)のような場が考えられますが、ポイントは、社内に多層化したコミュニティをつくるということです。かつては企業内にも県人会や趣味の会など、コミュニティが多層的に存在しましたが、いまではそれが少なくなっており、結果として、人と人との出会いや相互作用が起こる機会が減っています。

ある医療系メーカーでは社内の茶道研究会での雑談が全社的イノベーションのきっかけになりました。また、別の研究所のケースでは、社内にいる数学専門家のヒトコトで世界的な圧縮技術のブレークスルーが起こりましたが、それは社内食堂での出来事です。そういうセレンディピティ(偶然性)が起きるような仕掛けを会社の中につくっておくことが、いまの時代は特に求められていると思います。

3.現場と人事との新しいパートナーシップの在り方

実際に社員一人ひとりに仕事を与えたり、個の想いを見つめることができるのは、真っ先にはやはり現場のリーダーである。そこで最後に、人事は今後、現場とどのようなパートナーシップをつくり上げていくべきか―について、うかがった。

管理者が社員一人ひとりと向き合うことを促す

確かに、社員一人ひとりの想いや経験を具体的に把握できるのは現場の管理者しかいません。人事は仕掛けをつくることはできますが、実際に行うのは現場の管理者です。だから人事は、現場の管理者が社員一人ひとりをきちんと見て、話をして、サポートしていく制度をつくらなければなりません。

例えば、評価者会議を、単に点数を分け合う場とするのではなく、上司同士が部下一人ひとりの経験や想いを共有する場として機能させることなどが考えられます。従来、人事は、そういう場では業績という単一の尺度で語ることを要請してきましたが、社員自身は業績だけを指標にして働いているわけではありません。むしろ、実現したい仕事の価値や意味こそが重要であり、この価値に対して、現在携わっている仕事がどういう意味があるのか、その意味づけをすることが上司には求められています。

評価面談などでも、部下に対し、単に評価がどうであるかを伝えるだけでなく、よかった点を具体的に指摘したり、今後どのようなことをやっていくことが本人の成長につながるのか、あるいは、将来に向けてこの仕事のここのところが役に立つのではないか――といったことを話すこと。そして、それを紙やデータベースに残していく。こういう積み重ねが現場の仕事力を高めていくのだと思います。

人事自らも、役割を再定義する

一方で、人事自らも役割を再定義する時期にきているのではないでしょうか。「業績のPlan-Do-See」のチェックに力点を置くのではなく、「人材育成のPlan-Do-See」にもっと関心を持つべきだと思います。そうすることで、業績を上げたかどうかを確認するだけの、事業部の下請けのような人事評価ではなく、その企業の組織文化や人材をどう育てるかに関わる人事評価に変えていくことができるようになるはずです。

いまの時代は、たとえ業績評価を一生懸命に行っても給料がたいして上がるわけでもなく、役職も上がりにくい。つまり、このやり方は管理者にとっても社員にとっても面倒くさいだけになってしまっています。このようなことからも、人事はもはや業績評価を軸にするのではなく、育成に傾注するべきと言えるのではないでしょうか。

実際に社員の立場で考えても、自分が育ったかどうかのフィードバックは欲しいでしょうし、組織から承認もされたいというのが本音でしょう。

職場を「生態系」としてとらえる

そのとき重要なのは、何をフィードバックすることが必要なのかを、人事が現場に分かりやすく伝えることです。人材育成を評価軸の中心にすると、業績だけをみているときとは違って、日々社員一人ひとりを見て、その想いを把握していないと評価ができなくなるということを、現場の管理者にきちんと伝えなければなりません。こういうことを実践するだけで「いい上司がいない」とか「コミュニケーションが職場にない」という問題は解決していくのではないでしょうか。

これらの積み重ねの結果として、職場の「生態系」ができていくとのだ思います。制度の下支えに皆の想いが積み重なっているという形は、職場を「トータルな生態系として統合的にとらえていく」ことで、はじめてうまくいくのだと思います。

育成は「層」ではなく、「個」に対して行う

その意味でも重要なことは、人材育成を「個」でとらえるという視点です。従来の人材育成は、入社何年次とか新任課長研修といったヒエラルキー的な層でとらえていました。そうではなく、一人ひとりが入社後どういうパスをたどってきたか、いま何を目指しているのかといった「個」で追いかけていく人事に変えていく必要があります。

近年データベース技術もしっかりしているので、一人ひとりのデータを蓄え、それぞれの体験や想いを把握しながら成長の機会を与えていくといったことにもトライできるはずです。一人ひとりがどんな価値をもち、どんな経験を持っているか。それを現場と人事が共有することが大切です。

個の経験や想いの集まりこそが全体であるという認識を、人事が持ち得ているかが問われる時代になっているのだと思います。

トピックス:いま”人が育つ現場”に変えるために 11月24日 シンポジウム開催に向けて

「仕事ができる人材」とはどのような力を備えた人か。その「仕事力」の現状がどのようにとらえられているか――人事担当者と現場のビジネスパーソンに向けて行った二つのアンケート調査にみられた両者の認識は、それぞれの調査レポートでご覧いただいたように共通する部分が多く、そこから「仕事力」を高めていくための課題が徐々に浮き彫りになってきました。

二人の専門家インタビューでも語られているように、「仕事の全体を見渡し、その意味・位置付けを把握してプロデュースする力」「人を巻き込み、マネジメントしながら課題を達成する力」をポイントとしてとらえられる仕事力は、具体的な経験の積み重ねなく獲得することは難しいものです。それを支える職場マネジメントの在り方、人同士のつながり、成長視点に立った"経験"のデザインをどのように形作るか。そこに経営・人事・現場が一体となって取り組むべき課題と改革への糸口が見いだされます。

いま"人が育つ現場"に変えるために――11月24日に開催する労務行政研究所 創立80周年記念シンポジウムでは、これまでのアンケート調査によって明らかになった「仕事力」の現状と課題を軸に、専門家インタビューでご登場いただいた一橋大学大学院教授の守島基博氏、ヒューマンバリュー代表取締役の高間邦男氏に加えて、アサヒビール人事部の籔内清悟氏にご登壇いただき、これからの人事部門に求められる役割と変革の方向性をライブでご議論いただきます。

当日の模様は、後日、本サイトのSession3コンテンツとしてご紹介いたしますので、ぜひご期待ください。