パネルディスカッション 仕事力を生み出す
〜現場と人事の役割とは〜

パネリスト発表1「仕事力とは何か」
株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役 高間邦男氏
1.「未来を生み出す力」が求められている

労務行政研究所のアンケートによれば、「仕事力」とは、社員一人ひとりが、@仕事とは何かが分かること(仕事の意味が分かること)、A何をすべきなのかが分かっていることと言えそうです。こうした仕事力が求められる背景には社会の変化があります。
現在のように、社会全体の複雑性が増している状況では、従来の方法や組織の一部の人間だけで正解を導き出すことが難しくなっています。昔のように、個人が正解を知っているときには、その決まった解答を伝える「説得力」がコミュニケーションにおいては重要でした。しかし、いまは説得よりも全員が参画して新たな価値を作り出していく「共創的なアプローチ」が必要になっています。共創的な取り組みを推進するには、仕事の意味を理解したうえで、社員自らが主体的に行動することが求められます。

これからの人材に必要なのは「未来を生み出す力」です。"不確実な時代"では過去の実績が、そのまま未来においても通用する保障にはならないからです。具体的には、次のような力が求められています。

  • @ より高い次元から仕事の意味を探求する力
  • A 変化の大きな潮流を見抜く力
  • B 未知の世界を把握し、これから進むべき方向を見定めていく力
  • C ビジョンや目的意識を形成していく力
  • D 直面している混沌とした事態でやり抜く力
  • E 経済的な利益や理論だけでなく、志とか想いの強さで人々に影響を与えていく力
  • F ビジョンや知識を日常の行動に変換する力

従来の学力やスキルでは納まらない総合的な力が問われていると言えるでしょう。

2.人々との相互作用を促進させ、体験から学べる機会を用意する

従来の知識や技術というのは、具体的にマニュアルやテキストに記述することができ、さらにストックすることができました。そして、客観的に数量化して把握することができました。こうした知識や技術を、マニュアルや集合研修・トレーニングで比較的短期間に学習する方法を「客観主義的学習」と言います。客観主義的な学習では、未来を生み出す力は身につかない、つまり、いま必要な「仕事力」は高まりません。
では、どのような学習が必要なのか。それは、周囲の状況や人々の相互作用、体験から学ぶことです。これを「社会構成主義的学習」と言います。今日、仕事力が落ちているということは、社会構成主義的な学習体験が不足していたと言えるのではないかと思います。
したがって、人事が行うべきことは、@仕事力を高めるような「場」をつくり、A人々との相互作用を促進させ、B体験から学べる機会を用意することです。

3.「仕事」と「心」にベルトを掛ける

そのためには、人事はこれから、社員一人ひとりがどのような経験をし、どのような力を獲得してきているかを個別管理していく必要があります。「一人ひとりをきちんと見ていく」ということです。
社員一人ひとりの想いや志向性を理解し、想いを実現する場を用意してあげたり、本人が伸ばしたいと思っていることに体験する機会を与えたり、アドバイスができる人に出会わせたりすることが、人事としての重要な役割です。
一方、社員(個人)には、次の4点が重要です。
@前向きに好きなことをやり続けること
A徹底してこだわり、エネルギーを1点に集中して放出すること
B理念・価値観・哲学・姿勢を具体的な行動を通じて学んでいくこと
C業務に没頭し研鑽を重ねることで、知識やスキルを発見し獲得すること
これらは「仕事」と「心」にベルトが掛かっていないとできません[図1]。厳しい時代になり、従来のように給与や出世といったベネフィットを求めるだけでは、仕事と心のベルトは掛かりづらくなっています。
仕事に取り組む意味や大切な価値を自覚してもらうことが重要です。ただ、価値観が多様化している中では、仕事に取り組む意味や価値を一方的に会社から押しつけることができません。一人ひとりが、いまどんな価値を伸ばしたいと思っているのか、またどんな価値を大切にしたいと思っているのか、こうした社員の使命感、自己理念といったものを、私たちは「セカンドセルフ」(人がもともと持ち合わせている欲求や動機とは異なり、使命感にまで高まった「想い」のこと)と呼んでいます。このセカンドセルフの獲得が仕事力を高めるうえで不可欠だと思います。

4.みなでやる、支え合う、学び合う

セカンドセルフを得るにはきっかけが必要です。それが危機感であったり、素晴らしい人との出会いによる場合もあります。しかし、素晴らしい人、例えば優秀な上司は、いつでもどこにでもいるわけではありません。そこでカギになるのが、仲間同士(集団)でビジョン・想いを共有できるかどうかということです。みなで集まり話し合って確認すると、集団的に腑に落ちるということがあります。人はそうした中で育っていきます。つまり、個人でできなければ、みんなで手伝い支えていくということです。
先日、成長著しい企業の社員の方々と話す機会がありました。共通していたのが、@みなでやっている、Aみなで支え合っている、Bみなで学び合っている――という認識を持っていることでした。こうした認識は、組織内で、共創的な取り組みを推進していなければ持ち得ないものです。

5.主体的・自律的な行動を生み出す

[図2]は、マサチューセッツ工科大学教授のダニエル・キム氏の「成功の循環」モデルです。「関係の質」がよくなれば、「思考の質」がよくなり、「行動の質」もよくなる。「行動の質」がよくなると、「結果の質」がよくなる。「結果の質」がよくなるとさらに「関係の質」がよくなる。この影響関係をモデル化したものです。
これまでのマネジメントは、「結果の質」を重視してきました。結果とは、成果・業績のことです。管理者が社員にあれこれ施策を指示したりして行動を統制し、それにより、結果を生み出そうとしてきました。
しかしそれでは、これからの時代は成果につながりません。複雑性の増す時代では、みなが主体性を発揮して行動することが求められるからです。主体性のある行動は、当然、思考が主体的でないと生まれません。そして、思考が主体的であるには、意見をオープンに交換できたり、互いに情報を共有できる人的な「関係の質」が重要になります。

いま、求められている組織変革は、社員に対して指示命令するのではなく、お互いフラットな関係の中で社員自らに考えてもらい、それによって主体的・自律的な行動を生み出すというアプローチなのです。

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