プレゼンテーション いま”人が育つ現場”に求められるものは何か
〜「仕事力」の調査・研究からみた各社の課題と取り組み〜
「労政時報」 WEB編集長 原 健

人材マネジメントの構造変化の中で、評価・育成の仕組みが大きく進化した

労務行政研究所「労政時報」
WEB編集長 原 健
労務行政研究所「労政時報」
WEB編集長 原 健

この20年を人事労務の分野で振り返ると、非常に多様な変化が訪れた時代といえると思います。ここに示したのは、私たちが昭和40年代から実施しているモデル賃金調査のデータです[図1]。折れ線グラフは、この調査で調べた賃上げ率とベースアップ率、下の棒グラフは基本賃金の内訳を属人給と仕事給に分けて、積み上げて示したものです。
ご覧のように、基本賃金水準が横ばいで推移している一方、その内訳をみると、属人給と仕事給のウエイトが2003年に初めて逆転しました。そして翌年には、仕事給のウエイトが67.6%と、さらに13ポイントもアップしています。2000年代に入って、成果主義の台頭による制度面の変化は皆様もよくご存じのことと思いますが、こうしたデータからも、この時期に人材マネジメントの大きな構造変化が起こったことが見て取れると思います。
こうした中で、一番大きな変化を遂げたのは、人事考課の仕組みではないかと私は考えています。企業を取り巻く環境変化、そこで求められる人材像や能力発揮の在り方が、評価の仕組みの中で非常に具体化されてきました。そして、このように評価制度が大きな進化を遂げた背景には、やはり「人材の育成」に強く根付いている部分が大きいと思います。どのような評価や動機付けをすれば、社員は伸びていくのか。そして人材育成の仕組み自体も、評価と連動しながら大きく多様化しています。

私たちの問い掛け――いま、本当に職場で人は育っているのか

こうした中、私たちがこのプロジェクトの冒頭で問い掛けたいと考えたのが、『いま、本当に職場で人は育っているだろうか』ということです。いま各社では、さまざまな形で人材育成の取り組みが進められています。しかし、「仕事ができる人材」がどれくらい育っているのかについてはなかなか把握しづらい。把握しづらい一方で、人材育成にまつわる問題意識は、私たちが企業に接する中でもそこかしこで聞かれます。そこでいま、「仕事ができる人材」というのは、どういう人なのだろうということをもう一度問い直してみる必要があるのではないでしょうか。
私たちの基本的テーマは、ここにあります。それを私たちはこの場で「仕事力」と呼ばせていただいています。企業のこれからの成長を支える力、仕事ができる人材や組織が備えている「仕事力」とは何か。そして、それはどのように生まれてくるのか。そこにどんな課題があり、企業の人事担当者は何に取り組んでいくべきなのでしょうか。 まず研究に先立って、私たちなりの「仮説」を考えました。ポイントだけ申し上げますと、やはり「よい仕事」ができる、仕事力を備えた人材を育成していくためには、「よい職場・組織作り」ということが、非常に大きなキーになるだろうと考えました。
高度成長期以来、日本では独特の経営・人事システムの下で組織の強みが形作られ、ノウハウの伝承が進められてきました。それがいま、経済の現状は右肩下がり、少子高齢化という先の長い問題にも直面しています。さらにはグローバル化、IT化、職場の中の人材の多様化、いろいろな要因が押し寄せる中で、職場が機能不全を起こしている。そのことが、ヒトをうまく育てられなくなっている大きな原因に挙げられるのではないかという考えに立ちました。その仮説の検証に向けて行った、二つのアンケート調査結果を次にご紹介します。

「仕事力」の核は全体把握力と関係調整力

まず、人事担当者への調査結果をみていきます。最初の設問では、一人前の人材に求められる「仕事力」とはどういうものか。具体的に言いますと、「ある人が"若手"の段階を卒業して"一人前"になってやっていくためにはどういう能力が必要か」ということでお答えいただきました。その回答結果では、「全体把握力」(仕事を幅広くとらえる資質)が51.7%、関係調整力(仕事をやり遂げる実行力)が57.7%と高いスコアを集めました[図2]。
ここでいう「全体把握力」はいわばプランニング、戦略を考えるということ。「関係調整力」というのは、その実行の流れをマネジメントしていく力――というようにとらえられると思います。この二つを組み合わせて、自分自身に与えられた仕事、あるいは組織の中での役割、その人のポジションによっては組織そのものをマネジメント、プロデュースしていく。そういう力が大切である、と考えられていることがこのアンケートから浮かび上がっていると思います。

人事担当者の7割が「仕事力の衰え」を認識

では、こうした「仕事力」の現状について、人事担当者はどのように感じているのでしょうか。回答結果によると、自分の周りで「仕事力」に疑問を感じる機会が増えている、つまり「仕事力が衰えている」と答えた人は全体の7割に上りました。その理由について、最も多く挙げられていたのが、「本人のスキルの低下」。具体的には、組織内の人間関係の希薄化が進む中で、コミュニケーションスキルの低下が顕著に見られるという意見が多数に上りました。
このように、多くの人が「仕事力が衰えている」と認識している一方、「仕事力アップのための具体的な取り組み」を実施している割合は、全体の2割程度にとどまっています。

以上の人事担当者アンケートから、いま人材に求められる「仕事力」に関しては、「全体把握力」と「関係調整力」、この二つがこれからの議論の核として挙げられると思います。ただし、現状では「仕事力」の低下に関して多くの方が問題意識を感じておられる。その中でもコミュニケーションスキルの低下が、特に顕著に言われています。
これから、「仕事力」を育んでいくうえでは、仕事の経験を通じ、人間関係にもまれながらコミュニケーションを重ねることが大切になってくる。裏返していえば、いま職場の中でそうした機会が不足してきているのではないか、という問題が浮かび上がっていると思います。

ビジネスパーソンが考える「仕事力」のキーワードは「戦略力」

もう一つのアンケートでは、ビジネスパーソンが「仕事力」をどのように考えているのかを尋ねました。まず、「あなたが考える仕事力="よい仕事をする能力"というのは、どういうものでしょうか?」とお尋ねしたところ、トップに挙がったのは、「戦略力」というキーワードでした。仕事を見通して戦略を立て、必要な事柄を判断していく、そういう能力を備えている人こそ「仕事力が高い」というご意見が半数近くに上っています。
その現状について「自分の職場や周りで仕事力がある人が増えているかどうか」と尋ねた結果では、やはり人事担当者アンケートと同様に、5割近くが「仕事力のある人が減っている」と回答しています。「どうして仕事力がある人が減っているのか」とお尋ねした結果では、「きちんと部下を育てる上司が減ってきている」「リストラによって仕事に余裕がなくなってきている」「人付き合いの能力そのものが低くなっている」といった意見が上位に挙がりました。こうした部分も、先ほどみた人事担当者アンケートと符合しているように思われます。

連帯感ある職場と「言葉」の動機付けが成長を促す

次に、二つの対峙する意見を並べ、回答者の考えが「AとBのどちらに近いか」という価値観設問を尋ねました。注目いただきたいのは、「A.コミュニケーション量の多さは、高い仕事力を生み出すベースとなると思う」「B.コミュニケーション量の多さと仕事力の高低は基本的に関係しないと思う」という設問で、全体の73%、13個の設問の中で最も多くの人が「Aに近い」と回答している点です[図3]。関連項目の回答を併せてみると、"コミュニケーションの豊富さ、帰属意識、連帯感が得られるのがよい職場であり。それが仕事力を育んでいくうえでのベースになる"と多くのビジネスパーソンが考えていることが分かります。
最後に、「あなたが仕事をするうえで成長のきっかけになったことはどういうことか」と設問した結果では、「自分が働いていた職場でのアドバイス」「同僚や先輩からのアドバイス」「いわゆる失敗体験」の三つが上位に挙がりました。仕事で経験を重ねることは無論重要ですが、そこには「言葉」が大きくかかわってくる。言葉による気付きや動機付けがなければ、成長には結び付いていかないと考えられていることが、ここから分かります。

以上を整理すると、ビジネスパーソンの考える「仕事力」については、「戦略力」や「段取り」「調整力」を挙げる声が多く、人事担当者の回答と符合する点が多く見られました。そして、「仕事力の源とは何か」という点については、優れたチームや活気のある組織・職場がベースになると多くの方が考えているように見受けられます。このことが冒頭に申し上げた私たちの「仮説」、人を育てるうえでの職場の在り方といま職場が抱えている問題、それがこれからの「仕事力」を考えていく一つの入り口になるのではないかという考えと結び付くものと思います。

活力ある職場作り、経験のデザイン、現場リーダーと人事が担うべき役割とは

最後に、これからの議論の課題を整理したいと思います。
まず、「仕事力」は、コミュニケーションの豊富な、生き生きとした職場から生まれてくると考えられる。そういう活力のある職場を、どうやって作っていくか、が第1の課題です。 また、仕事力を高めるカギとして考えられるもの。仕事の中でのチャレンジ、成功や失敗、社内外の人々とのつながり――そうした経験の積み重ねをどのようにデザインしていくのかという課題が第2に挙げられると思います。
最後に、人材育成に最も影響力の高い現場リーダーは、「仕事力」アップのために、どのような動機付け策を打っていくべきか。そして、組織活性化や職場ぐるみの人材育成を展開していくために、人事はどのような役割を担い、何を変えていくべきでしょうか。
こうしたテーマについて、このあと議論を進めて、より深く考えていきたいと思います。

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