プレゼンテーション いま”人が育つ現場”に求められるものは何か
〜「仕事力」の調査・研究からみた各社の課題と取り組み〜
「労政時報」 WEB編集長 原 健

人材マネジメントの構造変化の中で、評価・育成の仕組みが大きく進化した

労務行政研究所「労政時報」
WEB編集長 原 健
労務行政研究所「労政時報」
WEB編集長 原 健

この20年を人事労務の分野で振り返ると、非常に多様な変化が訪れた時代といえると思います。ここに示したのは、私たちが昭和40年代から実施しているモデル賃金調査のデータです[図1]。折れ線グラフは、この調査で調べた賃上げ率とベースアップ率、下の棒グラフは基本賃金の内訳を属人給と仕事給に分けて、積み上げて示したものです。
ご覧のように、基本賃金水準が横ばいで推移している一方、その内訳をみると、属人給と仕事給のウエイトが2003年に初めて逆転しました。そして翌年には、仕事給のウエイトが67.6%と、さらに13ポイントもアップしています。2000年代に入って、成果主義の台頭による制度面の変化は皆様もよくご存じのことと思いますが、こうしたデータからも、この時期に人材マネジメントの大きな構造変化が起こったことが見て取れると思います。
こうした中で、一番大きな変化を遂げたのは、人事考課の仕組みではないかと私は考えています。企業を取り巻く環境変化、そこで求められる人材像や能力発揮の在り方が、評価の仕組みの中で非常に具体化されてきました。そして、このように評価制度が大きな進化を遂げた背景には、やはり「人材の育成」に強く根付いている部分が大きいと思います。どのような評価や動機付けをすれば、社員は伸びていくのか。そして人材育成の仕組み自体も、評価と連動しながら大きく多様化しています。

私たちの問い掛け――いま、本当に職場で人は育っているのか

こうした中、私たちがこのプロジェクトの冒頭で問い掛けたいと考えたのが、『いま、本当に職場で人は育っているだろうか』ということです。いま各社では、さまざまな形で人材育成の取り組みが進められています。しかし、「仕事ができる人材」がどれくらい育っているのかについてはなかなか把握しづらい。把握しづらい一方で、人材育成にまつわる問題意識は、私たちが企業に接する中でもそこかしこで聞かれます。そこでいま、「仕事ができる人材」というのは、どういう人なのだろうということをもう一度問い直してみる必要があるのではないでしょうか。
私たちの基本的テーマは、ここにあります。それを私たちはこの場で「仕事力」と呼ばせていただいています。企業のこれからの成長を支える力、仕事ができる人材や組織が備えている「仕事力」とは何か。そして、それはどのように生まれてくるのか。そこにどんな課題があり、企業の人事担当者は何に取り組んでいくべきなのでしょうか。 まず研究に先立って、私たちなりの「仮説」を考えました。ポイントだけ申し上げますと、やはり「よい仕事」ができる、仕事力を備えた人材を育成していくためには、「よい職場・組織作り」ということが、非常に大きなキーになるだろうと考えました。
高度成長期以来、日本では独特の経営・人事システムの下で組織の強みが形作られ、ノウハウの伝承が進められてきました。それがいま、経済の現状は右肩下がり、少子高齢化という先の長い問題にも直面しています。さらにはグローバル化、IT化、職場の中の人材の多様化、いろいろな要因が押し寄せる中で、職場が機能不全を起こしている。そのことが、ヒトをうまく育てられなくなっている大きな原因に挙げられるのではないかという考えに立ちました。その仮説の検証に向けて行った、二つのアンケート調査結果を次にご紹介します。

「仕事力」の核は全体把握力と関係調整力

まず、人事担当者への調査結果をみていきます。最初の設問では、一人前の人材に求められる「仕事力」とはどういうものか。具体的に言いますと、「ある人が"若手"の段階を卒業して"一人前"になってやっていくためにはどういう能力が必要か」ということでお答えいただきました。その回答結果では、「全体把握力」(仕事を幅広くとらえる資質)が51.7%、関係調整力(仕事をやり遂げる実行力)が57.7%と高いスコアを集めました[図2]。
ここでいう「全体把握力」はいわばプランニング、戦略を考えるということ。「関係調整力」というのは、その実行の流れをマネジメントしていく力――というようにとらえられると思います。この二つを組み合わせて、自分自身に与えられた仕事、あるいは組織の中での役割、その人のポジションによっては組織そのものをマネジメント、プロデュースしていく。そういう力が大切である、と考えられていることがこのアンケートから浮かび上がっていると思います。

人事担当者の7割が「仕事力の衰え」を認識

では、こうした「仕事力」の現状について、人事担当者はどのように感じているのでしょうか。回答結果によると、自分の周りで「仕事力」に疑問を感じる機会が増えている、つまり「仕事力が衰えている」と答えた人は全体の7割に上りました。その理由について、最も多く挙げられていたのが、「本人のスキルの低下」。具体的には、組織内の人間関係の希薄化が進む中で、コミュニケーションスキルの低下が顕著に見られるという意見が多数に上りました。
このように、多くの人が「仕事力が衰えている」と認識している一方、「仕事力アップのための具体的な取り組み」を実施している割合は、全体の2割程度にとどまっています。

以上の人事担当者アンケートから、いま人材に求められる「仕事力」に関しては、「全体把握力」と「関係調整力」、この二つがこれからの議論の核として挙げられると思います。ただし、現状では「仕事力」の低下に関して多くの方が問題意識を感じておられる。その中でもコミュニケーションスキルの低下が、特に顕著に言われています。
これから、「仕事力」を育んでいくうえでは、仕事の経験を通じ、人間関係にもまれながらコミュニケーションを重ねることが大切になってくる。裏返していえば、いま職場の中でそうした機会が不足してきているのではないか、という問題が浮かび上がっていると思います。

ビジネスパーソンが考える「仕事力」のキーワードは「戦略力」

もう一つのアンケートでは、ビジネスパーソンが「仕事力」をどのように考えているのかを尋ねました。まず、「あなたが考える仕事力="よい仕事をする能力"というのは、どういうものでしょうか?」とお尋ねしたところ、トップに挙がったのは、「戦略力」というキーワードでした。仕事を見通して戦略を立て、必要な事柄を判断していく、そういう能力を備えている人こそ「仕事力が高い」というご意見が半数近くに上っています。
その現状について「自分の職場や周りで仕事力がある人が増えているかどうか」と尋ねた結果では、やはり人事担当者アンケートと同様に、5割近くが「仕事力のある人が減っている」と回答しています。「どうして仕事力がある人が減っているのか」とお尋ねした結果では、「きちんと部下を育てる上司が減ってきている」「リストラによって仕事に余裕がなくなってきている」「人付き合いの能力そのものが低くなっている」といった意見が上位に挙がりました。こうした部分も、先ほどみた人事担当者アンケートと符合しているように思われます。

連帯感ある職場と「言葉」の動機付けが成長を促す

次に、二つの対峙する意見を並べ、回答者の考えが「AとBのどちらに近いか」という価値観設問を尋ねました。注目いただきたいのは、「A.コミュニケーション量の多さは、高い仕事力を生み出すベースとなると思う」「B.コミュニケーション量の多さと仕事力の高低は基本的に関係しないと思う」という設問で、全体の73%、13個の設問の中で最も多くの人が「Aに近い」と回答している点です[図3]。関連項目の回答を併せてみると、"コミュニケーションの豊富さ、帰属意識、連帯感が得られるのがよい職場であり。それが仕事力を育んでいくうえでのベースになる"と多くのビジネスパーソンが考えていることが分かります。
最後に、「あなたが仕事をするうえで成長のきっかけになったことはどういうことか」と設問した結果では、「自分が働いていた職場でのアドバイス」「同僚や先輩からのアドバイス」「いわゆる失敗体験」の三つが上位に挙がりました。仕事で経験を重ねることは無論重要ですが、そこには「言葉」が大きくかかわってくる。言葉による気付きや動機付けがなければ、成長には結び付いていかないと考えられていることが、ここから分かります。

以上を整理すると、ビジネスパーソンの考える「仕事力」については、「戦略力」や「段取り」「調整力」を挙げる声が多く、人事担当者の回答と符合する点が多く見られました。そして、「仕事力の源とは何か」という点については、優れたチームや活気のある組織・職場がベースになると多くの方が考えているように見受けられます。このことが冒頭に申し上げた私たちの「仮説」、人を育てるうえでの職場の在り方といま職場が抱えている問題、それがこれからの「仕事力」を考えていく一つの入り口になるのではないかという考えと結び付くものと思います。

活力ある職場作り、経験のデザイン、現場リーダーと人事が担うべき役割とは

最後に、これからの議論の課題を整理したいと思います。
まず、「仕事力」は、コミュニケーションの豊富な、生き生きとした職場から生まれてくると考えられる。そういう活力のある職場を、どうやって作っていくか、が第1の課題です。 また、仕事力を高めるカギとして考えられるもの。仕事の中でのチャレンジ、成功や失敗、社内外の人々とのつながり――そうした経験の積み重ねをどのようにデザインしていくのかという課題が第2に挙げられると思います。
最後に、人材育成に最も影響力の高い現場リーダーは、「仕事力」アップのために、どのような動機付け策を打っていくべきか。そして、組織活性化や職場ぐるみの人材育成を展開していくために、人事はどのような役割を担い、何を変えていくべきでしょうか。
こうしたテーマについて、このあと議論を進めて、より深く考えていきたいと思います。

基調講演 変わる仕事・組織・人材
「仕事力」を高める人事戦略と課題を考える
一橋大学大学院 商学研究科 教授
守島基博氏

1.「階層型組織」から「自律型組織」へ

一橋大学大学院 商学研究科 教授
守島基博氏
一橋大学大学院 商学研究科 教授
守島基博氏

市場の多様化やビジネスのグローバル化(現地対応の重要性)などを背景に、「現場」での価値創造が、企業の競争力に大きな影響を及ぼすようになりました。
これまでの組織がもっていた階層型構造や、トップダウン方式での戦略実行では、環境変化に適応しにくくなっています。これからは、現場での発案や顧客価値創造、臨機応変な問題解決を促し、現場が自律的に働く「自律型組織」へと変革していくことが重要です。そうした組織を早く構築できた企業が市場で勝ち残っていけると言えるでしょう。

自律型組織の特徴は、下記の4点です。

  • @ 一人ひとりが、自律的に目標設定して、分散した中で行動する
  • A 組織の統合は、「インセンティブ」と「ビジョン」による
  • B リーダーには、企業家的行動が求められる(戦略構築の重要性)
  • C メンバーには、自律的目標設定と達成が求められる(whatを考える人)

「フラット型組織」と言ってもいいでしょうし、アメリカでは「HPWS(high performance work system)」という言い方がされています。Googleが代表例です。いわゆる「20%ルール」(社内で過ごす時間の20%を、自分が担当している業務以外の分野に使うことを許可したルール)に象徴されるように、Googleでは高度なプロフェッショナル人材が自ら目標設定し、自律的に分散した中で行動します。そして、私が素晴らしいと思うのは、その20%の仕事を、イントラネットを通じてデモンストレーションし、皆がそれを評価し、結果としてそれを組織全体の仕事にまとめていくというプロセスが組み込まれていることです。こうして自律的なアイディアが、組織のプロジェクトになっていくわけです。自律・分散型でかつ、協働する組織。そういう企業こそが、これからの時代において強い企業だと言えます。

その意味で、先ほど、労務行政研究所の仕事力に関するプレゼンテーションにあった、「現場で仕事をプロデュースする能力が重要」との指摘は、そうした傾向を反映しているのでしょう。今生まれつつある組織では、これまでのように上から下りてきた命令を粛々と実行していく人材ではなく、現場できちんと判断し、現場で価値創造をしていく人材が必要不可欠になっているからです。

2.求められる現場リーダーと、日本企業での弱体化の原因

そこで、自律型組織が求められている中で、キーになるのが現場リーダー(ミドルマネジメント)です。それも、単に目標達成への効率性と成果だけを追求する従来型のリーダーではなく、@組織目標達成のための戦略を立てて、Aメンバーを巻き込みながら成果を達成できるリーダー、言うなれば「現場経営者としてのリーダー」が求められています。

このような「現場経営者としてのリーダー」が、組織のあちこちにいる企業が強くなっていくのだと思います。ところが、残念なことに現状日本の組織は、現場リーダーが育ちにくく、機能しにくくなっています。

その背景には、以下の3点が挙げられます。

  • @ 人材育成投資の低下と選抜型育成投資への傾斜配分
  • A 職場の変化による育成機会の減少
  • B 現場リーダーの負荷増大

一つ目は、人材育成費用そのものが削減されてきた実態があります。労働費用に占める教育訓練費の推移をみると[図1]、バブル期の1988年の6000億円をピークに減少し、2002年時点ではピーク時よりも1000億円も少なくなっています。しかも、こうした中で、育成方針が「底上げ重視」から「選抜重視」に移っていきました[図2]。選ばれた人材に集中的に研修費用を投下する一方で、一般の現場リーダーが受ける研修の質と量が減らされてしまったのではないかと、私はみています。

二つ目は、職場が大きく変化したことによる育成機会の減少です。もともと職場は人材マネジメント上、多くの役割を担っています。育成の場であったり、協働の場であったり、さらには癒しの場でもある。私は、これを職場の「オモテ機能」と表現しています。
ところが日本企業では、過去20年間のうちに、成果主義の導入や業績の低迷を受けて採用を手控えたりしたことで、「選別」「競争」「ストレス」といった職場の「ウラ機能」が肥大化してしまいました。私はこの現象を「職場寒冷化」と呼んでいますが、このことが、現場リーダーの育成・成長という面でもマイナスに働いています。
例えば、人の育成においては、その人の実力よりもほんの少し高めのチャレンジングな仕事を与えて、ちゃんと見守って、フォローしていくことが大切です。しかし、成長の契機となるチャレンジ性のある仕事自体が減少してしまいました。ウラ機能が強くなった職場では「確実に成果を出せるか否か」がどうしても重視されるためです。
さらには、採用の手控えにより、職場の中で「育てたことも、育てられたこともない世代」ができてしまいました。上司や先輩から学び、また、後輩を指導する中でリーダーとして成長していくという、リーダー育成には不可欠なプロセスが欠落してしまった職場が決して少なくないのではないかと思います。

三つ目は、現場リーダーの負荷が増大したことです。多くがプレーイングマネジャー化して忙しくなり、職場のまとまりや仲間意識も低下する中で、コンプライアンスやメンタル対応、ワーク・ライフ・バランス、非正規労働力のマネジメントなど、業務量自体が増大しています。しかも、働く人の価値観が多様化していく中で、「見えないダイバーシティ」が広がっています。性別や年齢、人種などは目に見える表層的な違いですが、個々の価値観の違いは目に見えない深層的な違いです。価値観の違いを把握するためには、リーダーが積極的にコミュニケートしていかなければなりません。そのことが現場リーダーに求められるマネジメントの質と量を格段に高く、複雑化させています。

3.「人材開発」から「組織開発」の視点へ

こうした変化のなかで、これからの人事には、人材開発、人材育成とは別の視点、つまり、組織として強くなるために、組織自体を開発するという考え方が必要になってきます。
もともと、組織開発とは、個としてバラバラの人材を集め、組織として機能させるための施策を指します。集まった人たちを一つのまとまった集団に作り込んでいくプロセス−「協働」や「統合」といった作り込みが組織開発なのです。組織開発とはそのプロセスを指します。職場の小集団活動はその典型例と言えるでしょう。
残念ながら、日本ではまだ、組織開発という考え方に馴染みが薄いかもしれません。しかし、欧米では重要な経営機能として認識されており、人材開発はむしろ組織開発の一部と考えられています。
ただ、いまわが国の企業に必要なのは、組織としてのまとまりや一体感のみではありません。過去20年間の組織の弱体化に対して、組織として持つべき強み、さまざまな能力を組織として作り込んでいくこと。すなわち、「組織能力(見えざる資産)」の獲得・維持・向上を図ることがカギとなります。特に、今重要なのは、職場がもつ力を再生させていくことでしょう。
一般的には、「現場」を基点とした「組織能力」には、以下の七つの視点があります。

  • @ 働く人の元気⇒働きがい・働きやすさ
  • A 経営への信頼やコミットメント⇒「フェアネス」の大切さ
  • B 人材力・リーダーシップ⇒獲得、育成、リテンション、仕事の割り振り、リーダーシップ・パイプライン
  • C 文化・価値観の共有⇒理念教育、コミュニケーション、評価
  • D 変化への準備⇒コミットメントと学習能力
  • E 職場の協働・協調⇒コミュニティとしての職場
  • F 知の共有⇒協働による知識創造

人材開発は確かに重要なことですが、企業経営の視点から考えると、人事が最も優先すべき仕事は、このような組織能力を自社がどこまで獲得できているかをチェックし、不足していたり、さらに多くを必要とする組織能力を戦略的に作り込んでいくことです。

4.現場リーダーが育つ組織とするポイント

そして、前段で申し上げたような自律的組織の重要性増加と、現場リーダーの弱体化のなかで、今本当に必要なのは、現場リーダーが育つ組織を開発することでしょう。上記でいえば、Bに当たります。現場リーダーが育つ組織を作るには、次の四つのポイントがあります。

  • @ 一人ひとりに考えさせる組織
  • A エンパワーメントのある組織
  • B フィードバックのある組織
  • C フォロワーが育っている組織

まず、「一人ひとりに考えさせる組織」とすることが基本です。そのための方法は多様です。一つの良いその例として、しまむらや良品計画のように、現場がマニュアルを作り込んでいく取り組みが挙げられます。マニュアルという自律的な思考とは通常対極に置かれる仕組みを使うなかで、現場の一人ひとりが改善提案し、その都度マニュアルを改訂できる、もしくはその改善提案が次のバージョンに反映されていく、そういった仕組みです。現場の気づきや提案を、業務工程に反映する権限を社員一人ひとりに与えることで、考えることの動機付けにもなっているように思います。
また、アサヒビールが取り組む「ブラザー・シスター制度」も参考になるでしょう。先輩社員と新人が1対1で向き合うけれども、周囲が連携・協力しながら二人を見守っていく。つまり、当事者だけが考えるのではなく、周囲の人もともに考える仕組みにしています。

「エンパワーメントのある組織」に関しては、エンパワーメントの本当の意味を知ることが大切です。ここでいうエンパワーメントは「権限委譲」とまったくイコールというわけではありません。実行にかかわる権限委譲をしながら、任せきりにはしないでさまざまな支援を同時に行うことです。例えば、現場リーダーの育成でいえば、「パワーを与えて任せてはいるけれども、柱の陰からきちんと見守っている」というサポート体制を組織として構築するということとなります。

「フィードバックのある組織」とは、成果や業務プロセスに関して、よいところと悪いところの両面からの説明ができる組織のことです。そのためには、常日ごろから情報を把握しているが重要になります。きちんとしたフィードバックがあってはじめて、新たな目標の設定、チャレンジにつながっていきます。
チャレンジングな目標を与え、実行にかかわる権限委譲をしつつ、きちんと見守り、支援する。そのうえで結果に対しては、よい点、悪い点の両面からフィードバックする。それを踏まえて、新たなチャレンジを行っていく。このサイクルをまわしていくことが、人を育て、リーダーを育てるうえで重要なことなのです。

そして、最後の「フォロワーが育っている組織」とは、リーダーをフォローする人を育成していくことです。リーダーをいくら育てても、フォロワーがきちんと育っていない組織では、リーダーが機能しにくいことに変わりはありません。リーダー育成とともに、あるいはその前に、フォロワー育成がどこまでできるかがポイントになります。
ここでいう「フォロワー」とは、(a)周りとの協働をしながら、自律的に動ける人材、(b)リーダーの目標を達成するために自律的に動ける人材、(c)選んだリーダーに批判的にコミットできる人材です。こうしたフォロワーは、単に職場リーダーを機能させるだけではなく、ここから、次世代のリーダーが生まれるでしょう。

5.現場リーダーへの支援をいかに行うか

また、このプロセスのなかで人事部門が考えるべきことは、現場リーダーへの支援をどう行うかです。ここでいう「支援」とは、@育成、Aリーダーが機能できる環境の提供――の2点です。リーダーは、育成して終わりの対象ではなく、継続的に支援すべき対象なのです。
そのためには、リーダーを支えるフォロワーを育成したり、リーダーに任せるべきことと、リーダーに任せず経営としてできることをきちんと区別したりするなど、過度に現場リーダーに期待しすぎないことも大切です。それが、リーダーを強くし、ひいては職場、企業を強くすることになります。

人材マネジメントはいま、大きな転換期にあります。現場での価値創造が競争力の源泉になり、現場の重要度が増す中では、従来とは異なる新しい組織・人材が求められています。
特に新しいリーダー、つまり、現場経営型のリーダーの必要性が高まっています。人事のミッションは、現場リーダーが育ち、機能するための組織開発を行うこと。ただ注意しなくてはならいのは、現場リーダーを"スーパーマン"としてとらえないということです。そうではなく、1人の人間としてとらえたうえで、きちんと支援していく。それを戦略的に進めていくことが、これからの日本企業の人事に最も求められていることだと思います。

パネルディスカッション 仕事力を生み出す
〜現場と人事の役割とは〜

パネリスト発表1「仕事力とは何か」
株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役 高間邦男氏
1.「未来を生み出す力」が求められている

労務行政研究所のアンケートによれば、「仕事力」とは、社員一人ひとりが、@仕事とは何かが分かること(仕事の意味が分かること)、A何をすべきなのかが分かっていることと言えそうです。こうした仕事力が求められる背景には社会の変化があります。
現在のように、社会全体の複雑性が増している状況では、従来の方法や組織の一部の人間だけで正解を導き出すことが難しくなっています。昔のように、個人が正解を知っているときには、その決まった解答を伝える「説得力」がコミュニケーションにおいては重要でした。しかし、いまは説得よりも全員が参画して新たな価値を作り出していく「共創的なアプローチ」が必要になっています。共創的な取り組みを推進するには、仕事の意味を理解したうえで、社員自らが主体的に行動することが求められます。

これからの人材に必要なのは「未来を生み出す力」です。"不確実な時代"では過去の実績が、そのまま未来においても通用する保障にはならないからです。具体的には、次のような力が求められています。

  • @ より高い次元から仕事の意味を探求する力
  • A 変化の大きな潮流を見抜く力
  • B 未知の世界を把握し、これから進むべき方向を見定めていく力
  • C ビジョンや目的意識を形成していく力
  • D 直面している混沌とした事態でやり抜く力
  • E 経済的な利益や理論だけでなく、志とか想いの強さで人々に影響を与えていく力
  • F ビジョンや知識を日常の行動に変換する力

従来の学力やスキルでは納まらない総合的な力が問われていると言えるでしょう。

2.人々との相互作用を促進させ、体験から学べる機会を用意する

従来の知識や技術というのは、具体的にマニュアルやテキストに記述することができ、さらにストックすることができました。そして、客観的に数量化して把握することができました。こうした知識や技術を、マニュアルや集合研修・トレーニングで比較的短期間に学習する方法を「客観主義的学習」と言います。客観主義的な学習では、未来を生み出す力は身につかない、つまり、いま必要な「仕事力」は高まりません。
では、どのような学習が必要なのか。それは、周囲の状況や人々の相互作用、体験から学ぶことです。これを「社会構成主義的学習」と言います。今日、仕事力が落ちているということは、社会構成主義的な学習体験が不足していたと言えるのではないかと思います。
したがって、人事が行うべきことは、@仕事力を高めるような「場」をつくり、A人々との相互作用を促進させ、B体験から学べる機会を用意することです。

3.「仕事」と「心」にベルトを掛ける

そのためには、人事はこれから、社員一人ひとりがどのような経験をし、どのような力を獲得してきているかを個別管理していく必要があります。「一人ひとりをきちんと見ていく」ということです。
社員一人ひとりの想いや志向性を理解し、想いを実現する場を用意してあげたり、本人が伸ばしたいと思っていることに体験する機会を与えたり、アドバイスができる人に出会わせたりすることが、人事としての重要な役割です。
一方、社員(個人)には、次の4点が重要です。
@前向きに好きなことをやり続けること
A徹底してこだわり、エネルギーを1点に集中して放出すること
B理念・価値観・哲学・姿勢を具体的な行動を通じて学んでいくこと
C業務に没頭し研鑽を重ねることで、知識やスキルを発見し獲得すること
これらは「仕事」と「心」にベルトが掛かっていないとできません[図1]。厳しい時代になり、従来のように給与や出世といったベネフィットを求めるだけでは、仕事と心のベルトは掛かりづらくなっています。
仕事に取り組む意味や大切な価値を自覚してもらうことが重要です。ただ、価値観が多様化している中では、仕事に取り組む意味や価値を一方的に会社から押しつけることができません。一人ひとりが、いまどんな価値を伸ばしたいと思っているのか、またどんな価値を大切にしたいと思っているのか、こうした社員の使命感、自己理念といったものを、私たちは「セカンドセルフ」(人がもともと持ち合わせている欲求や動機とは異なり、使命感にまで高まった「想い」のこと)と呼んでいます。このセカンドセルフの獲得が仕事力を高めるうえで不可欠だと思います。

4.みなでやる、支え合う、学び合う

セカンドセルフを得るにはきっかけが必要です。それが危機感であったり、素晴らしい人との出会いによる場合もあります。しかし、素晴らしい人、例えば優秀な上司は、いつでもどこにでもいるわけではありません。そこでカギになるのが、仲間同士(集団)でビジョン・想いを共有できるかどうかということです。みなで集まり話し合って確認すると、集団的に腑に落ちるということがあります。人はそうした中で育っていきます。つまり、個人でできなければ、みんなで手伝い支えていくということです。
先日、成長著しい企業の社員の方々と話す機会がありました。共通していたのが、@みなでやっている、Aみなで支え合っている、Bみなで学び合っている――という認識を持っていることでした。こうした認識は、組織内で、共創的な取り組みを推進していなければ持ち得ないものです。

5.主体的・自律的な行動を生み出す

[図2]は、マサチューセッツ工科大学教授のダニエル・キム氏の「成功の循環」モデルです。「関係の質」がよくなれば、「思考の質」がよくなり、「行動の質」もよくなる。「行動の質」がよくなると、「結果の質」がよくなる。「結果の質」がよくなるとさらに「関係の質」がよくなる。この影響関係をモデル化したものです。
これまでのマネジメントは、「結果の質」を重視してきました。結果とは、成果・業績のことです。管理者が社員にあれこれ施策を指示したりして行動を統制し、それにより、結果を生み出そうとしてきました。
しかしそれでは、これからの時代は成果につながりません。複雑性の増す時代では、みなが主体性を発揮して行動することが求められるからです。主体性のある行動は、当然、思考が主体的でないと生まれません。そして、思考が主体的であるには、意見をオープンに交換できたり、互いに情報を共有できる人的な「関係の質」が重要になります。

いま、求められている組織変革は、社員に対して指示命令するのではなく、お互いフラットな関係の中で社員自らに考えてもらい、それによって主体的・自律的な行動を生み出すというアプローチなのです。

パネルディスカッション 仕事力を生み出す
〜現場と人事の役割とは〜

パネリスト発表2「成長する職場作り」
アサヒビール株式会社 人事部 エグゼクティブプロデューサー籔内清悟氏
1.アサヒビールの人事基本方針

事例のご紹介の前に、当社の人事基本方針をお話しさせていただきます。[図1]のように、「新・成・気 結束」というキーワードで括っています。長い文章ではなかなか社員に覚えてもらえないし読んでももらえないので、このようにキーワードでロゴ化して示しました。この方針を作ってから、すでに5年経っています。
「新」は新しいことにチャレンジする社員を応援し、評価するという意味です。「成」はレベルです。自分の成長に対して意欲的に取り組んでいる、そうした影響を周りに及ぼしている人を評価します。「気」というのは非常に日本的なのですけど、気合いとか気概の「気」。これがないと仕事はできないと考えていますので、気合いを入れています。
そして、これらを括るのが「結束」です。仕事は一人ではできないので、自分から主体的に周りを巻き込む、そしていろんなメンバーから新しい力を引き出していく、こんなリーダシップを求めているという意味です。

2.ブラザー・シスター制度

[図2]が当社での主な取り組みですが、まずブラザー・シスター制度についてお話しします。これは、職場に来た新人1人に先輩が1人張り付くという制度で、先輩は飲みの席や接待の場での作法といった細かいところから、伝票の切り方や商談の仕方まで、新人に手取り足取り教えます。先輩役は、社内から自ら進んで手を挙げてやってもらっていて、しかもこれをやったからといって、何か特別な処遇があるわけではありません。ただ、これをやって一番勉強になるのは、先輩本人です。人に教えるために、まず最初に自分自身が学びますので、とてもよい勉強になっています。

また、営業の例でいいますと、業務用と量販店では営業の仕方がまったく違うので、業務用のブラザーに付いたら、次は量販店のリーダーに頼んだりという具合に、職場の中でたらい回しというと語弊がありますが、「こういうことを学ばせてください」ということで職場全体で新人をフォローしている感じがあります。
この制度に関しては面白い話があります。先輩役は半年間やるのですが、新人が一人前になり、一人でスーパーを回って商談して商品を積み上げている様子を、自分の仕事で忙しいブラザーが草葉の陰からではないのですがそれを見ていて、「大丈夫か」と寄って来てしまうこともあるそうです。こうした先輩・後輩のコミュニケーションが、場合によっては一生続く、という関係がこの制度を通じてできています。
なぜブラザーを無償でやっているのか、というと私もそうでしたが、先輩から若いころ受けた恩を後輩に返す、という想いでずっと大昔から続いている制度だからです。

3.キャリアアドバイザーによるフォロー

次に、「キャリアアドバイザーによるフォロー」をご紹介します。これはキャリア開発支援の一つです。特に入社2〜3年目の若手では、「早くマーケティングや人事をやりたい」というふうにキャリアに関する焦りを持つ方が多くいます。「まず、今の仕事を通じてお客様や当社の仕組みをよく知ろう。目の前の仕事を一生懸命やることが必ず次のステップにつながる」と話すことも必要になります。本来、こうしたキャリアアドバイスは上司の役割で、キャリア面談の時間も設けています。ただ、上司と部下だけですと、私の経験からも面談終盤で気が付くと仕事の課題解決の話をしていたりすることもありますし、部下が希望する職場の理解が薄い場合もあります。

こうした上司と部下の関係を側面からフォローする人事部付きの顧問(キャリアアドバイザー)という役割で、先輩OBに全国を回ってもらっています。対象は、新卒入社2〜3年目とキャリア入社の若手社員で、人数は230人ぐらいになりますが、半年以上かけて、一人ひとりと面談回訪していただいています。
このフォローが効果絶大です。何よりも社員が喜びます。例えば、配属の少ない遠方支店に1人だけ新入社員がいても、人事部付きの先輩OBがわざわざ飛行機に乗って来てくれる。本人にとっては、それだけで自分は会社から認めてもらっているという喜びというかうれしさがあります。

4.所属長・ライン長対象の研修

所属長・ライン長向けの研修ですが、同じ人を集めて毎年しつこく、テーマを変えてやっているのが当社の特徴だと思います。2008年の研修では、「OJT」と「評価育成手帳」の二つをキーワードとして取り上げました。
[図3]はそのときの研修のアウトプットです。まず、当時の荻田社長に「OJTについて、社長の今までの想い出で、何かエピソードはありますか?」ということを事前にヒアリングして、図のような三角形を作りました。このスパイラルがよい方向に回っていくと、どんどん人は成長する。その間、上司が的確でタイムリーなフォローを仕掛けていくということです。図の外側の吹き出しに小さい字が書いていますが、これは研修中に受講者から挙がって集約されたキーワードを並べたものです。「こうしたことをみんなでシェアした」という証です。
もう一つ、評価育成手帳は、人事制度を5年前に改定したときに取り入れたものですが、もう一度みんながやっているものを持ち寄って、よいやり方をシェアしようということでこの年に取り上げました。もともとは、「こういうことをやったらどうですか」とイントラに載せていた程度のもので、具体的にだれがいつ何をやって…というのをメモしているだけなのですが、現場ではこれが納得のいく評価に役立っていることです。
例えば、「部下が忘れていることも、これがあると話ができた」「これを実践したら、"上司は自分のことを、こんなに見てくれているんだ"ということで部下のモチベーションが上がった」というような事例が報告されて、みんなも「メモをつけるぐらいなら、お安い御用だ」ということで、いま当社の中で流行っているものです。

5.社内外武者修行

個人向けの施策では、「社外武者修行」というのがあります。玩具メーカーや電器メーカー、総合商社など、まったく業種の違う他社へ若手の幹部候補を1年間派遣して、そこの仕事を経験してもらうものです。先ほどお話しがあった関係調整力など仕事力そのものが問われる、仕事力アップにつながる施策と思っています。
また、グループ内でもこれと同じような「社内武者修行」をやっています。例えば、営業部門では、優秀な営業マンに1週間、武者修行の営業社員を一人付けるという形でやっていて、自分の強みと弱みを再確認してスキルアップへのヒントにしてもらいます。
これからはさらにグループや職種を越えて武者修行の幅を広げていきたいと考えていますが、そのためには職場全体で受け入れの態勢を作ってもらうことが重要になるので、そういうフォローを事業部自ら喜んでやってもらっているというところです。

以上で、私の発表を終わります。ご静聴有難うございました。

パネルディスカッション 仕事力を生み出す
〜現場と人事の役割とは〜

パネリスト
守島基博氏(一橋大学大学院教授)
高間邦男氏(株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役)
籔内清悟氏(アサヒビール株式会社 人事部 エグゼクティブプロデューサー)
コーディネーター
原 健(「労政時報」WEB編集長)
1.社員が成長する「職場」づくりを考える
現場の考えを吸い上げ、”皆が皆を育てる”体制を作る

【原】本日のテーマに掲げた、社員の「仕事力」を高めていくための取り組みとして、いまの職場の在り方をどのように変えていくべきか、そのためにどのような仕掛けが必要か、そして人事部門にはどんな役割が求められるか、を掘り下げて考えていきたいと思います。
まず、「成長する職場づくり」ということでアサヒビールさんの多岐にわたる施策・取り組みのお話をいただきました。籔内さんにお尋ねしますが、御社でこういった施策を設計されるきっかけや検討プロセスはどのようになっているのでしょうか。

【籔内】お話しした中にはかなり古くから続いている制度もあって、どういうきっかけで始まったのか、実はよく分かっていないものもあります。実際に施策を決めていくプロセスですが、当社では「成長支援担当者」という現場の窓口に当たる人を置いていて、そこから現場感覚で問題点を挙げてもらうということをやっています。
それに加えて、人材開発や研修に関してはトップを巻き込むことの意味が大きいのではないかと思っています。社長は常に課題意識をお持ちですから、毎年秋口ごろ直接おうかがいを立てて、そこからどういうテーマに取り組むかを絞って設計をしていくという形です。

【守島】私がアサヒビールさんの取り組みで素晴らしいな、と思ったのは、高間さんが最後の方で言われた「みんながみんなで育てる」という体制を、きちんと作り込んでいるところです。そのために、成長支援担当者を置いたり、ブラザー・シスター制度や、評価記録を付けるといった取り組みで、現場の中で皆が皆を育てやすいような仕組みを人事がきちんと作っている。それが、基調講演で私が申し上げた「支援」なんです。思想として「皆が皆を育てる」ということと、それに対する制度や仕組みの面からの支援がなされている。そうした体制や風土が社内に根付いているんですね。

現場を支えるミドルマネジメントの役割分担が必要

【原】高間さんのお話しで、「職場全体で学び合ううえで生態系的な取り組みが必要」、つまりお互いが結び付き影響し合う「生きた関係性」が必要ということと思いますが、そこでのマネジメントの役割についてどのようにお考えでしょうか。

【高間】いま組織のミドルマネジメントは、新しい知識が次々生まれて人に教えるのが難しいとか、プレイングマネージャー化して忙しいとか、コミュニケーションの機会が減ったとか、いろいろ厳しい現実に立たされています。当然、業績を上げるために組織をしっかりマネジメントする役割もありますし、先ほどの発表で私が申し上げたような、学び合う場を作ったり、オープンなコミュニケーションをしたり、チーム作りをしたりする役割もあります。
そうした中で、ミドルマネジメントを部長層と課長層としてとらえた場合、それぞれに業績アップのマネジメントと学びやコミュニケーションの場づくりといった役割を同時にこなせというのは、生態系的にちょっと負荷が多すぎるな、と思っているんですね。サッカーに例えるなら、課長層は「キャプテン」で、部長層は「監督」という具合に、ミドルマネジメントの役割を分けないとやっている本人たちがきつすぎるのではないかと。こんなふうに思っているのですが、守島さんのお考えはいかがでしょうか。

【守島】私もそのとおりだと思います。今回のアンケート調査でいわれている仕事力、私は「現場の経営力」といっていますが、その根幹は、戦略力と人間力だと思います。ミドルマネジメントについて言えば、そうした仕事力が課長層に対して、より求められるようになってきた。それが今回の調査である程度見えてきたように思います。
一方、部長はどうかというと、私は課長に求められるレベルが上がると同時に、部長のレベルも本来であれば上がるべきだ、と思っています。役割分担という意味ではさらに負荷が大きくなりますが、部長はもっともっと戦略的な力が強くなければいけない、もしくは、成果責任をきちんと負わなければいけない。
リーダーシップという意味で、どういうものが部長に求められるかというと、いま企業の部長さんは非常にたくさんの部下を抱えていますから、一人ひとりの顔までは当然見ていられない。そうすると、英語で言うところのIndirect Leadership、私はこれを、「触れないリーダー」と呼んでいるんですが、そういう意味で、一人ひとりを「触れないなかで」組織をリードしていく「人間力」がこれから問われるのではないかと思います。

2.経験を通じて、学び成長する仕掛けづくり
OJTが機能する職場の「生態系」が成立しているか

籔内清悟氏(アサヒビール株式会社 人事部 エグゼクティブプロデューサー)
籔内清悟氏(アサヒビール株式会社 人事部 エグゼクティブプロデューサー)

【原】次に、職場で皆が皆を育てるような仕掛けづくりをどう進めていくか。仕事と経験を通じてどう育てていくのか、と言えばまずはOJTというキーワードが思い浮かびます。OJTに関してこれから考えなければいけないポイントについては,守島さんいかがでしょう。

【守島】OJTに関して、高間さんのご発表にあった言葉を使わせていただくと、二つのポイントがあると思います。
一つ目は、「社会構成主義的な学習がきちんと成立しているか」ということです。私の勝手な解釈で言えば、一つは「上司の背中を見て覚える」ということ。もう一つ別に、最近の流行りの言い方をすれば、「一皮むける経験」をさせること。こうしたことを総合的に行うのが「社会構成主義的な学習」の根幹だと思います。そういう「経験を通じて学ぶ場」というのが自分の企業の職場にどれぐらい存在しているのか、ということを人事としては問うべきだと思います。
そしてもう一つは、そういう学びのための「生態系」または「環境」が職場に成立しているかどうか。基調講演でお話ししたように年齢構成のギャップもあるでしょうし、上司がプレーヤー化して忙しい、という問題もあるでしょう。また、IT化によってコミュニケーションが希薄化してきたということもあると思います。そうした中で、社会構成主義的な学習が行われるような環境、つまり生態系が、職場にあるのかどうか、ということを人事としてフォーカスしなければいけない。
先ほど籔内さんのご発表に出てこなかったもので、ぜひ私から一つ紹介したいのですが、アサヒビールさんの人事部では1年に1回、「現場回り」を必ずやっておられるんです。人事部員の人数はそれほど多くはないと思いますが、それでも現場に出て行ってちゃんと話を聞いて、職場の生態系が健全な形であるのかどうかを把握する。そうやってポイントを押さえていくことは人事としても重要だと思うし、裏を返せば、そういう部分が一番危機的なところにあると思うわけです。

【原】籔内さん、その「現場回り」というのはどのように行われているのでしょうか。

【籔内】当社は9月が定期異動の時期でして、もともとは、6〜7月ぐらいに、各ライン長に直接人事構想を聞いて回る、というのが本来の目的だったのです。人事部員はいま13人ほどなのですが、手分けをして全世界の事業所に直接行き、1時間ほどたっぷりと時間をとって、事業場長・所属長を合わせて300〜400人くらい、全員の話を聴くことを丁寧にやっています。その時期、人事部はだれもいなくなって機能しなくなるので、他の仕事も抱えて辛い面もあるのですけど。

【原】所属長研修のお話でも触れていただいたOJTに関して、指導の計画や進捗のチェック、指導役の上司同士のコミュニケーションなどはどのようにやっていらっしゃるのですか。

【籔内】例えば営業の場合、09年から「One On One Meeting」 というのを制度化しています。毎週1回、月曜日はほぼ全員が集まるので、そこで支店長と部下がマンツーマンで対話してOJTの確認をしたりしています。酒類本部では、教育研修担当が現場に出向いて、マネージャーミーティングという形で一定のエリアのライン長を全員集めて、そこでOJTについての話をするような場が設けられています。あと、生産系の現場では「OCT」、On the Chance Training という取り組みをやっています。元はクルマのホンダさんから教わったらしいのですが、次期の管理職層に当たる社員の目標設定時にストレッチした課題を与えて、四半期ごとに事業所の部長たちが集まって、彼らの成長度合いをチェックするミーティングを行っています。

【原】お話しいただいた取り組みからも、指導役と部下という関係だけでなく、指導役同士の間でも、それぞれの部下の成長に関する情報が多く共有されているようにうかがわれます。そして、職場の中での対話の機会がとても豊富に設けられているということですね。

豊富な対話を通じて社員の「想い」を引き出し、共有する

高間邦男氏(株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役)
高間邦男氏(株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役)

【原】いま、コミュニケーションが希薄化していると言われていますが、守島さんのお話にもあったように、仕事を通じたつながり、仕事の目的を共有する対話をどうやって増やしていくか、ということが仕事力を高めるキーの一つになると思います。
ここは、高間さんにお尋ねしたいのですが、そういう対話が豊富な職場を作るうえでのポイントとはどんな点でしょうか。

【高間】いま企業の中で、新しいイノベーションがどうやって起きているのか、というのを聞いていくと、一人の社員の『想い』から始まっているケースが多いようです。いろいろな企業でワーキンググループを作ると、うまくいっているグループには必ず『想いのある社員』がいるんですね。そういう社員がその場を活用して、自分の想いを実現しようとして真摯に取り組んでいるわけなんです。ただ、必ずしも最初から全員にそういった高い想いがあるわけではない。そこで、社員の視座視点を高めて「想いを引き出す」という営みが必要になります。
その営みの中で、私は「五つのカン」が必要だと思っています。まずは"関心"を持ってもらわないと何も始まらない。そこから"感じて"もらって、"関係作り"をしてもらって、"考えて"もらって、最後には"完遂"してもらう。その中でも、「関心を持って、感じてもらう」ということがとても重要なんですが、アサヒビールさんでは、武者修行に出させたり、他の事業体の話を聞いたり、現場の話を聞いたりというように、実際に関心を持って、感じて、関係を作っていくことを丁寧にやっていらっしゃるな、と思いました。

【原】お話のように、価値や想いを共有する機会を作るために、実際の仕事から離れたところで語り合うような場を設けるべきなのでしょうか。

【高間】籔内さんのお話にあったように、現場を回ってヒアリングをするときに一緒に聞いていく方法もあると思います。あるいは、人事評価の面談の機会で、業績や成果ばかりに注目するのではなく、部下がどういうふうに成長したいと思っているのか、将来どうありたいのかを一緒に聞くのもよいと思います。アサヒビールさんでは評価・育成手帳や部下育成のデータベースなどを用意されていましたが、あのような形で、社員がどういう体験をしてどういう気づきがあったのかを書く、ということでも同じようなことができると思います。
先ほど、管理者が作られた素晴らしいメモの例を拝見しましたが、こうしたことをできるだけ丁寧にやってもらいたいわけです。それを管理者にしっかりやってもらうためには、人事から管理者に対して、部下の想いや体験を聞くことが必要だと思うのです。人事に聞かれればと答えないといけないので、対話をしないといけない。そういう仕掛けを作っていく必要があると思います。

一人ひとりの対話を管理者に促す「ツール」

【原】お話しいただいたような、管理者と部下、人事と管理者、あるいは管理者同士の対話やコミュニケーションを重ねていくこと、そのための仕掛けを作っていくことも、基調講演でお話しいただいたような現場経営者としてのリーダーを磨いていくこと、経営力を高めていくことにつながるのではないかと思います。守島さん、いかがでしょうか。

【守島】先ほどミドルマネジメントの役割という話もありましたが、課長さんのレベルで一番重要なのは、やはり「ピープル・マネジメント」だと思います。つまり、部下一人ひとりを把握して、一人ひとりをきちんと育てていくということです。いろいろな状況が重なる中で、いま多くの課長さんはそれができない、もしくは関心がない。そういう現実が結構あるのではないでしょうか。だから人事として、そこの関心を呼び起こしてあげることが大切なんです。
ただ、それを上から目線で人事や経営がいくら言ったところで、現場はなかなか理解してくれない。そのときに、やはり対話のためのツールを用意することが必要だと思うのです。それによって、上司から部下へのコミュニケーションをきちんと作り込んでいく。あるいは、ちょっと言い方はよくないのですが、それをやらなければいけないような状況に、上司を追い込んでいく。
そこで、一人ひとりをちゃんと把握し、マネージすることによって部下はそれぞれ異なったタイプの仕事力を身に付けていくべきなのだ、ということを上司自身に理解してもらう。それがリーダーシップの第一歩だと思います。
しばしば、日本の多くのリーダーは「集団で管理をしている」という考え方があるので、個別に一人ひとりの能力を把握して、一人ひとりを育てていくということがどこまでできるか。人事からの支援も含めて、そこのところがこれから企業にとって、競争力の源泉になると思うのです。

パネルディスカッション 仕事力を生み出す
〜現場と人事の役割とは〜

パネリスト
守島基博氏(一橋大学大学院教授)
高間邦男氏(株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役)
籔内清悟氏(アサヒビール株式会社 人事部 エグゼクティブプロデューサー)
コーディネーター
原 健(「労政時報」WEB編集長)
3.人事部門はどのようにコミットしていくべきか
経営トップや周りを巻き込んでアクションすることが必要

【原】今回、仕事力を生み出すために職場の在り方をどう変えていくか、そのために人事はどのようにコミットしていくべきか、というところが大きなテーマですが、現実には人事と現場との間に相当の距離感がある。新しい取り組みに対する現場からの警戒感も強いと思うのですが、その壁をどうやって越えていくべきか。人事の立場におられる籔内さんのお考えはいかがでしょうか。

【籔内】当社の場合、私自身はそんなにネガティブにとらえられている印象はないと思います。
ただ、お話のあったような「壁」を越える奇手は、あまりないのではないでしょうか。結局、人事が現場を支援することに対してどこまで本気で考えているか、ということをいろんな場を通じて伝えることが大切だと思います。とはいえ、一人の力は知れているので、経営トップをはじめ周りの人たちをいかに巻き込むかということも重要です。それと当社の場合は、人事部門だけではなく、各部門の成長支援担当者みんなと一緒にやっていこう、というスタンスで進めているところもキーになっていると思います。

施策の押し付けではなく、現場の負荷を人事のサポートで軽減する

【守島】アサヒビールさんのやり方というのは、私に言わせれば、新しい施策を現場に押し付けるということは皆無ではないでしょうが、結構少ないのではないかと思います。例えば、ブラザー・シスター制度やキャリアアドバイザーの仕組みなどは、本来現場の上長さんがやるべきことの負荷を、人事のサポートで作った制度で軽減してあげる、ということなのだと思うのです。
唯一、現場が不満に感じるかもしれないのは、評価面談の育成手帳ですね。これを苦しみから喜びに変わるまで続けるとおっしゃっていましたけれど、続けさせていくという部分での人事のコミットが大切なんだと思います。つまり、制度ができたから、使ってください、というだけでは現場のリーダーは使えませんから、やっぱりそこは、単にポンと渡すのではなく、使い方を人事が考えて、そこに現場を乗せていく働き掛けがうまいのだと思うのです。

【籔内】評価・育成手帳に関して言えば、「結局あなたが楽になるのですよ」という話をすると、結構みんなころっと変わるんですね。具体的に書いて話す、というコミュニケーションだけで、部下のモチベーションが変わる、という事実がうちの会社の中にもあるので、それを知ると、「それならお安い御用だね」という形で変わるきっかけになっています。

評価面談や研修を、「物語」を共有する機会として活用する

【原】先ほどの守島さんのお話にありました「ピープル・マネジメント」、また高間さんのご発表でも「一人ひとりをきちんと見ていく必要がある」というご指摘がありました。そうした上司と部下のコミュニケーションに関して、これから人事が果たすべき役割・取り組みについて、高間さんからコメントをいただけますでしょうか。

【高間】私は、組織の文化や人材像、社員の行動様式というものに責任を負っているのが人事部だと思っています。こうした組織文化とか、人材像とか、行動様式というのは、私は「物語」に埋め込まれているな、と思うわけです。それは、いま組織の中に、管理職や部下たちの中にどういう「物語」があるのかということです。籔内さんのお話を聞きますと、アサヒビールさんでは、現場に人事が出向いて「話を聞かせてよ」とか、社長が全部の研修に出て話をするとか、物語を語る・語らせる機会を非常に多く用意されていると感じました。理屈から攻めるのではなく、物語を共有するようにしていると思うわけです。
最近の企業の例では、自社の理念や人材像や社員の想いといった物語=ストーリーをDVDや冊子の形でストックにしてしまう。それにも意義はあるのですが、物語はストックにするとパワーがなくなってしまう。直接語り継がれることで、そのパワーが維持されていくのだと思います。そういった意味で、人事評価の面談も、成果を判定するばかりではなく、上司と部下がお互いが物語を語り合う機会として活用してほしい。研修も、知識を埋め込んでいくことにとどまらず、参加者がお互いに物語を語り合う機会にもできると思います。現にそうした取り組みをされているアサヒビールさんの例は素晴らしいなと思いました。

ビジネスの現状と、「人のココロ」を理解して制度を作ることが大切

守島基博氏(一橋大学大学院教授)
守島基博氏(一橋大学大学院教授)

【原】社員の目から見た人事というのは、いわば「制度屋」のように映ることが少なくないと思います。そこで改めて、社員の成長に寄与するという役割を明確にして、そのために人事は現場へのサポートをはじめこうアクションしていくのだ、ということをいろんな形でアピールしていく必要があるのではないかと思うのです。守島さん、いかがでしょうか。

【守島】ちょっと言い方に語弊があるかもしれませんが、私は人事というのは、最後は「制度屋」だと思うのです。人事のプロフェッショナリズムというのは、さまざまな制度を作り込んで、運用していくところにある。ただ、その制度作りと運用のプロセスで、どういうことを考えていくかについてポイントが二つあると思います。
一つは、「うちの企業のビジネスって、一体何がクリティカルなポイントになっているのか」ということです。昔、ある企業の部門人事のトップの方に、「現場に行くときは何に注意されますか、人事制度の資料を読み返して準備していくのですか?」と尋ねたことがあります。その方は、「現場に行くときは、現場のビジネスでいま一番困っていることを把握していく」とおっしゃっていました。つまり、自分の企業のビジネスで何が一番ポイントなのかを理解し、理解したうえで制度を作る、運用するということが何より重要だと思うのです。
もう一つは、「人のココロが分かる」ということです。人っていう存在、何でうれしいのか、悲しいのか。何でモチベーションが上がるのか、下がるのか。そういうところをちゃんと人間として理解したうえで、制度を作り運用するということは重要だと思います。
例えば、仕事力がなくなってきたよねとか、人が育ってないよね、というのは、たぶん制度が一人歩きをして、その制度の裏にあるビジネスの問題や人の問題に、もう一歩踏み込めなかったところがあると思うのです。そういう意味でも、制度のプロフェッショナルとして現場をバックアップするうえでの、人とビジネスに関しての志向・感覚というのが重要と思います。

これから企業を強くするために、人材マネジメント機能が要になる

【原】時間も押し詰まって参りましたので、今日の皆さんのお話と議論を振り返って、お一方ずつコメントをいただきたいと思います。

【籔内】今日お話しながら、いろいろ自分でも気がつくところがありました。最後の方でやっぱり、そうなのかと思ったのは、当社の人事部長もよくいうのですが、人を人としてちゃんと扱う、これはライン長も同じ思いでやるということ。人事にとっては、やはり社員がお客様なので、お客様を知らずして、何か打ち手を打って検証をしていないのは、一番よくないことだと感じました。いまも完璧にはできていませんけれど、改めて自覚することができました。今日は本当にありがとうございました。

【高間】私がお話ししたようなことについて、いまみたいな厳しい状況の中では、悠長なことはいっておられないのだ、というふうな反応をされる方が結構いらっしゃるのですが、今日、守島さんの基調講演からから始まって、一つの同じような思想を共有できたのかなと思っています。今日お話したようなことは、これから企業と人材が成長していくうえで本当に重要だと思います。また、小さな会社ほど実際はやりやすい、ということもありますので、ぜひ取り組んでいただきたいと思いました。

【守島】今日いろいろなことを申し上げましたけど、私はこれから10年ぐらいは「人事の時代」だと思っています。組織を作る、企業を強くしていくという場面で、やはり人材マネジメント機能が要になるということが、多くの企業の経営者レベルで認識され始めてきたのだと思います。
そんな中で、私が改めて人事の皆さんにお願いしたいのが、さきほど申し上げた2点です。まず、うちのビジネスって何なのか、ビジネスが儲かっているあるいは儲かっていない理由は何なんだろうか、ということをきちんと把握すること。もう一つは、働く人たち一人ひとりの立場に立つということです。何が儲かっているか、何が儲かっていないかということは、現場のリーダーも、事業部長も、社長さんもみな理解しようとしているのですけど、何で社員のモチベーションが上がっていないのか、何で人が何で育っていないのか、ということを考えるのは、やはり人事部門しかないと思います。
忙しい中で大変だと思いますけども、自分の企業に合った「人事戦略」、戦略人事ではなくて「人事戦略」をきちんと考えて進めていく、ということがこれからの人事に求められることですし、それをやることで企業が強くなるというご褒美がついてくる、という時代になってきたのだと思います。私は、いつでもサポートしていますので、頑張っていただけければと思います。

【原】本日は大変長時間有難うございました。以上でパネルディスカッションを終了させていただきます。

エピローグ 
シンポジウムを終えて

シンポジウムを終えて
「仕事力」と「人が育つ現場」をめぐる課題を幅広く議論

『いま "人が育つ現場"に変えるために〜新しい日本の仕事力を生み出そう〜』と題した今回のシンポジウムは、300人を上回る満場のご参加をいただき、出演者のご発表と活発なご議論をもって無事終了いたしました。

当日は、矢田敏雄理事長の開会ごあいさつに始まり、「労政時報」WEB編集長の原 健より、「仕事力プロジェクト」としてこれまで2回のアンケート調査等を通じて明らかにしてきた「仕事力」をめぐる人事担当者・ビジネスパーソンの認識と現状の課題、議論の論点についてのプレゼンテーションを実施。
続いて、当プロジェクトでのインタビューをはじめ、研究に多くのご示唆をいただいている守島基博 一橋大学大学院教授より、プロジェクトの調査結果と人材マネジメントの現状を踏まえ、「仕事力」をめぐる人材育成の課題と方向性に関する基調講演をいただきました。
休憩をはさんで、基調講演をいただいた守島基博教授と、株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役の高間邦男氏、アサヒビール株式会社 人事部の籔内清悟氏を迎えて、原健WEB編集長の司会によるパネルディスカッションを実施。ディスカッションに先立って、高間氏からは、人材育成・組織変革コンサルティングのご知見から、いま求められる「仕事力」と職場における学びの変革の方向性、籔内氏からは、同社でさまざまに展開されている「成長する職場作り」に向けた施策事例のご発表をいただきました。その後の議論では、これらの論点を交えて、"人が育つ現場"を生み出すための課題と、現場リーダー・人事部門の在り方について多くの貴重なご意見・ご示唆をいただきました。

今回のシンポジウムは、これまで調査・インタビューを軸に進めてきた「仕事力」研究を、初めて現場の企業実務家に生の議論としてお届けする、いわばプロジェクトにとってのキックオフの機会となりました。ご出演者の方々から提起された論点や、事例発表からご示唆いただいた「仕事力」を育む職場作り・改革に向けたヒントなど多くの情報を活かし、さらにこれらをお聴きいただき、また当サイトでご覧いただいた実務担当者の皆様からのご意見を頂戴しながら、これからの調査・研究を進めていきたいと考えています。
改めまして、ご出演いただきました皆様、ご来場いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。

シンポジウムから考えたこと ――来場者アンケートより

シンポジウム当日、ご来場いただいた皆様にアンケートをお願いし、プレゼンテーションやディスカッションへのご感想、「仕事力」や人材育成をめぐる現状についてのご意見・お考えをお寄せいただきました。
特に印象的だったのは、シンポジウム終了から短い時間でお書きいただいたにもかかわらず、数多くの方々から大変丁寧に、そして長文にわたるご感想・ご意見をお寄せいただいた点です。また、そのご記入内容からは、私たちが「仕事力」というテーマを通じてお届けした論点、あるいは職場での人の育成をめぐる取り組みに関して、多くの方々が問題意識をもたれ、そして高い関心をお寄せいただいたことがうかがわれます。
以下お寄せいただいたご感想・ご意見の一部をご紹介します。

「仕事力」についてどのように感じられましたか?
  • ●仕事力の定義(全体把握力、関係調整力)の指摘は分かりやすかった。現場で人と人のつながりが生まれ、豊かなコミュニケーションが生まれるよう、部内・課内の活性化策の必要性を感じた
  • ●仕事力というと、とてもシステマチックかつデジタルなもののように考えがちだが、業務を進めるための専門力や資格ということではなく、人と人との相互作用であり、気持ちや意欲、感情というアナログに大きく左右されるPowerであり、力が発揮されれば予想もつかない大きな成果を生み出す力と思った
  • ●「仕事力=コミュニケーションを円滑にする」ことだと感じました。簡単にコミュニケーションと言っても「"現場"での"人事"との"社員間"の」とそれぞれ円滑にすることは困難でありますが、今後本日うかがったところをヒントに改善できるところから行っていきたいと思います
  • ●「仕事力」といわれても、ピンとくるものがなかったが、現場に直結する育成ポイントであり、今後の着眼点として非常に重要なものと感じた。人材育成と一口にいってもさまざまな視点があるように思うが、いかに現場から離れず会社全体を成長させていくかが重要であると常日頃感じている
  • ●自らの会社特有の能力・スキルではなく、他の企業、業種、職種において共通に求められる能力だと感じた(業種、職種で必要な能力のバランスは異なるとは思うが)
  • ●組織が組織的にサポートし構築していく個人の業務能力だと思いました。現場のリーダーが業績と人材育成の責任を持つのは荷が重すぎるので、業績のタテLineと人材育成のナナメLineの協働を組織的にサポートする必要性の高さを感じました
  • ●まさに今抱えている問題で、これまでの手段選択的な対応では解決せず、そのアプローチのヒントになった。リーダーとフォロアー、ビジョンのかかわり、組織開発、自律型組織等整理ができた
  • ●人を人として扱う、人がなぜ喜ぶか、悲しむかという簡単なことですが、コスト意識が優先され盲目になっていた。素晴らしいシンポジウムでした
  • ●業績向上の圧力の高まり、要員構造の複雑化、さまざまな要因から現場における人材の育成機能が低下していることは否めない事実であり傾向だと感じています。本日のシンポジウムではこの現状打破のヒントを数多く頂戴しました
  • ●仕事力とは、会社・事業により異なるのではないか(コミュニケーションだけでなく)。コミュニケーション力低下は、企業に入る以前の教育(学校・家庭)に問題があるのではないか。とはいえ、コミュニケーション力が低下していることを前提に採用せざるを得ず、企業がグローバル社会で勝ち残るには企業の人材育成の重みが相当増していると感じた
  • ●人の力が落ちてきているのが他の企業でも多く感じられることを知り、共通の課題であると感じた。この解決策のキーワードとして「仕事力」ということを考えていくのは良い視点でありじっくりと考えていきたいと思った
  • ●講演で述べられた「現場リーダー」の重要性を再認識しました。特に現場リーダーに求められる組織能力を習得することが仕事力になることに共感しました。現場経営力をいかに習得させるか、その仕組作りが仕事力の源泉と思われます
物足りなく感じられた点は?
  • ●言葉の定義付けをもう少し行ってほしい。より具体的な事例をあげたほうがもっと有意義であると思う
  • ●仕事力の定義ではなく、「何をどうやったか」の仕事力の具体的な例をもっと知りたかった
「仕事力アップ」へのアイデアやお取り組みについてお教えください
  • ●コミュニケーション機会を図るため、月1回簡単なセミナー(例:為替や与信など)を実施。終了後、社内で情報交換会と称して"軽い飲食"を行いながら、他部門との交流を行う。そこでいろいろな気付きや人脈作りを行いながら"仕事力アップ"に取り組んでいます
  • ●各人が成長するための「相談する人材」や「経験したい事項」などのマップを作成し、活用する
  • ●求める人物像をより「仕事力」ベースに再構築し、組織、採用、起用、評価に反映させていく
  • ●日常的に部下のチャレンジを後ろからサポートする機会をたくさん持とうと努めています
  • ●個への対応、職場開発、絆作りの重要さはそのとおり。一方、個の変化、職場環境の変化、社会の規範の変化を踏まえることが大事。また、日本だけでなくグローバル/グローカルな視点も必要
  • ●「仕事力」について経営者や管理者にまず知ってもらい、理解してもらうことで会社・組織としてどうしていくか考える

「"仕事ができる人材・組織"の「仕事力」とは何か」を問い直すところからスタートした当プロジェクトの問題提起と論点に対し、今回のシンポジウムを通じて、多くの方々からご反響とご共感をいただくことができました。そしてそこには、新しい人材の力を生み出すために、強く生き生きとした職場作りを進めるために、日々奮闘されている現場リーダーや人事担当者の方々の悩みの大きさや問題意識の強さが見て取れます。

『新しい日本の仕事力を生み出そう』プロジェクトでは、今回の議論と皆様からお寄せいただいたご意見を踏まえて、「仕事力」を軸とした人材育成の取り組みの方向性、学びを生み出す職場の在り方について、今後も独自調査や事例研究を積み重ね、その成果を当サイトを通じて随時お届けしてまいります。また、企業の人事担当、人材育成担当の方々や専門家、研究者の皆様と議論を交えて研究する機会、そしてそれらへのご意見をお寄せいただく機会を設けていきたいと考えています。

今後とも、私たちのプロジェクト研究にぜひご注目ください。