

明治大学大学院
グローバル・ビジネス研究科 教授
野田 稔氏
企業と組織は時代の要請によって変革・変容を重ね、そこから生み出された成長モデルが未来を築いていく。その動きをいかにとらえ、市場にマッチした、あるいはその先を行く付加価値をどう作り上げていくかが企業にとっての生命線と言える。当然それを支えるリソースマネジメントや組織と人材の戦略は新たな変革を方向づける重要なポイントだ。
では、グローバリゼーションに象徴される大きな環境変化の下で、いま企業に問われている「時代の要請」とは何か。それを“上げ潮”として成長に結び付けていくために、組織と人材はどのように変わっていくべきか。今回、シンポジウムで登壇いただく野田 稔氏に、経営・組織コンサルティングの豊富な経験からみた「これから」の在り方を語っていただいた。
-
「時代の要請」に関して、いつも考えるのは「ドミナントデザイン」という概念です。商品や産業には、その時代ごとに「これが当たり前」とみんなが共有している概念があります。例えば、昔のテレビは木の箱に入っていて、足が付いていて、チャンネルは手で回すもの…というのが当たり前でした。それがいつの間にか黒い箱になり、床に置かれるようになり、いまや壁に貼れるようにもなった。「テレビ」に対するみんなの概念が変わってきたわけです。
このように、時代に応じてドミナントデザインというのはチェンジしていくものです。これとまったく同じことが、企業にも起こっています。私はこれを指して、「第一世代の会社」「第二世代の会社」「第三世代の会社」と言っています。
第一世代の会社」というのは戦後すぐのことで、そのコンセプトは「強い会社を目指そう」でした。当時、日本の企業は小さくて弱かったから、これはモデルとしては当然で、ドミナントデザインの基本には「模倣戦略でいい」という暗黙の前提がありました。「二番手でいい」ので、あまりいろいろ考えなくてもよかったわけです。この時代には、ごく少数の経営者と大勢のオペレーター人材、そしてオペレーターを人的に管理する現場監督がいればOKだった。しかも運よく、“集団性”という日本国民の特性が生きるような産業、鉄鋼や機械組立などが時代の寵児でした。時代の要請と国民性がマッチして、奇跡の戦後の復興を果たしたわけです。
それが80年代くらいから少し変わってきた。より“賢い会社”を目指すようになった。それが「第二世代」です。なぜかというと、まず模倣が終わった。アメリカを模倣していてもダメな時代になってきたので、自分たちで考えなければいけなくなった。しかも、第一世代は一つの商品群の中で規模の拡大を果たしましたが、第二世代では多角化と海外進出が大きなキーになりました。そうなるとどうしても、賢さが要求されるわけです。そこから初めてポートフォリオの概念や、競争戦略の概念などが出てきて、「みんなMBAを取りましょう」という話になってきた。“頭がよい”ということが勝利の秘訣という時代へと移り、それは今にも続いています。 
-

その後、環境が大きく変わる中で、第二世代の“賢い会社”はさらに質的変化を求められ、第二世代の「2.1」バージョンにアップしなければならなくなりました。バージョンアップの方向性としては、「パワースマート2.1」という変化と、「センス2.1」という変化の二つがあると思っています。
「パワースマート」とは簡単に言うと、台頭してくる中国・韓国の企業との真剣勝負を世界の舞台でやりましょう――というドミナントデザインで、大体このような会社が、英語を公用語にしたりするわけです。より強く、よりスマートに、合理的で、力強くて、ラピッドで。そこではアジリティというのが重要なキーワードになってくる。このような方向に、6〜7割の会社が行こうとしているのではないかと思っています。一方、別の賢さを求めている会社もあって、それが「センス2.1」です。
今の日本の企業の強みとして挙げられるものを、私は「四つのK」とよく言うのですが、それは「快適」「健康」「きれい」「かわいい」です。上海万博のとき、日本産業館で一番人気があったのは実はINAXのトイレで、中国人はみんな「スゴイ」とビックリしたそうです。こうした商品が象徴するように、世界一快適で世界一の長寿、健康国の日本は,「四つのK」に関して超先進国といえます。
日本企業がこうした強みを武器にしていくには、まずセンスが大きく問われます。デザイン性やホスピタリティなど、同じ賢いと言っても“右脳のよさ”が重要なポイントになってきます。この「センス2.1」に向かっていくためのキーワードは何かというと、明らかに「Change ! Yes we can.」です。今、それができるかどうかがこの方向を目指す企業にとって大きなポイントと言えます。さらにもう一つの第三世代が始まっていて、それは「志の高い企業」です。今、優秀な学生はみんな、社会問題解決志向の高い会社を狙います。これは一過性のブームだろうと思って見ていたのですが、どうやら違う。世界的な潮流として、先進国の優秀な学生は社会問題解決の方向にシフトしています。いわゆるCSRのような、少し寄付をして責任を果たしたといったような話ではなく、本業を通じて社会問題を解決するという方向に舵を切らないと、優秀な学生は集まってこなくなっているのです。

-
パワースマートにしても、センスにしても、社会問題の解決にしても、どの方向に行くのであっても、“舵を切らない”という選択肢だけがなくなってしまったというのが、今、日本企業の置かれている状況だと思います。
ではその中において、企業はどう対応するべきか。先ほどお話ししたように、第一世代の企業のころは、アメリカの真似をすればよかったのでやるべきことは明確でした。いかに腰を据えて、腹をくくって、大規模に素早く投資するか――という非常にマッチョな、男っぽい意志決定が最も成功につながったのです。
ところが今は、「センスにするのか? パワースマートで行くのか? 社会貢献で行くのか?」――まずここから選択しなければいけない。けれども、どれを選べば成功するかは分からない。社会貢献で行くとしてもどの分野でやるのか。技術的強みは何だ、既存顧客の強みは何だ、というのは分からない。多分いろいろなオプションが出てきます。だからといってよく分からないうちから「とりあえずこれで行こう」という第一世代的な判断を下してはいけません。今の時代、それは最も危険な判断です。不確定で選択肢が多い時代の投資行動や意志決定はどうあるべきかというと、「とりあえず薄く張る」というのが一番正しい。どれが売れるか分からない間はとりあえず薄く、小規模な投資にとどめて大きな意思決定はしない、というのがコツ。その後に事情が分かって「これはもう少し先に行けそうだな」と思ったら、その先につながる大きな投資に踏み切る――そうした形に企業の投資行動は変わってきているわけです。

-
これを組織論に置き換えてみると、選択肢が多い中で、1カ所ごとそれぞれに大勢の人間を投入することはできない。だから小さな自律的なチームを作って「お前ら頑張れ」とやるしかない。つまり選択肢に合わせた組織の「小括り化」です。しかも、その小括り化した多くの選択肢のうち大部分は失敗する可能性が高い。そこでいちいち失敗の責任を問うていると、あっという間に会社から人がいなくなってしまいます。
昔のソニーには、「失敗はなかったことにする」というよい社風があったそうです。一切責任は問わずなかったことにすれば、みんな恐れずに失敗できる。もちろん、その失敗の仕方が怠惰によるものなら、これは責めるべきだと思います。
しかし、多くの選択肢の中で8割方は失敗するのだとすれば、この8割を先行投資として考えられるような人事制度でないと、これからはおそらくうまく行かない。組織は小括りで、失敗を許す人事制度。これがちゃんとできているかどうかが、環境変化の中で企業が勝ち抜くうえで重要なポイントになると思います。
-

今、組織の中で元気が出ない理由は一体何かというと、やはり、「未来が見えないこと」にあると思います。将来どうなるか分からない。昔の日本人はすごく貧しかったけれども、何となく未来が明るいように見えていた。未来が明るいように見えていると、人間は明るくなれるんです。ですから、未来を作る作業が、組織の中に明確に作られることが活性化への第一の原則だと思います。
私は「活性化」というのは、きちんと定式化できると思っています。それは目指すべき目標が共有されていて、一人ひとりが自主的・自発的にこれを追求して、しかも協働している状態――これが活性化の状態だと思っています。
一番重要なのは、「何をなすべきか」「未来に向かって明るく行こう」という方向性がみんなで共有できていること。そして、その明るい未来に向かっていくこと自体が、自分たちの誇りにつながるようなビジョンであること。こういう構造さえ作っておけば、日本企業は、いくらでも再生できると思っています。現状にしがみついて「とにかく、これで食おう」と思っていると、どんどんコストダウンしてジリ貧になっていく。だから「これだけではダメなのは分かっているので、余力のあるうちに早くこっちをやろうよ」と。その意味で、日本企業にとって舵を切ることは、もう待ったなしだと思います。そこでもし重荷になっているようなものがあるならば、ルーティンワークを行うことに引き戻すような「旧体制=アンシャン・レジーム」があるなら、それをバッサリ切ることが経営者の役割と言えるでしょう。

-
過去にとても停滞していたとある企業のコンサルティングに携わったことがあります。その企業は、社内が非常に大きなピラミッド型組織になっていて、そのヒエラルキーの上位を過去に大きな功績を上げた年配者が占めていました。その下にいるミドルにはなかなか権限が移譲されず、何かを言っても大体否定されてしまう。それでも過去の功績を引き合いに出されると反論もできず、そのことが組織の停滞を招く大きな原因になっていたわけです。
そこで私たちが取り組んだのは、「脱出計画」を立てることでした。ミドルの人たちが、既存のピラミッドから飛び出して、小括り化された小さな三角形を作れるような制度を取り入れました。それは一種の社内ベンチャーで、いまもその時に作られた小さな事業単位が結構残っています。そうして下の人たちが脱出していくと、ピラミッドは上からの重しだけの構造になり、次第に自然消滅するだろうと思ったのですが、実際はそうはならなかった。ピラミッドの上位の人たちにも悪意はなく、「実は俺たちがあいつらを圧殺していたんだ」ということが分かってきて、今度は「自分たちにできることを自分たちでやろう」ということを決めたんです。
そうして起こされた新しいビジネスが、また大きなものに育っていきました。組織ピラミッドのディコンストラクト(分解)が、上の人たちにも新たなビジネスを考えるチャンスとなったのです。こうしたチェンジをしていくことによって、組織はずいぶん変わってくるのではないかと思っています。
-

元々、企業変革論では、トップの旗振りは必要ではあるが、必ずしもトップが変革をスタートさせていない、ということを多くの人が言っています。例えば、ロザベス・モス・カンターの『ザ・チェンジマスターズ』などでも、そのようなことが書かれていますし、野中郁次郎先生がずっと述べられている「ミドルアップダウン」もそうです。
20年ほど前に企業変革のお手伝いをしたときの例では、経営企画部長と経営企画課長の2人が変革の主導者として火付け役になっていました。過去の文化にどっぷり浸かり、その文化の中で成功者となった経営トップから大きな変革を切り出すのはなかなか難しいのが現実です。だからトップの背中を押すミドルという存在が絶対に必要だと思います。
ただ,ミドルの人たちは、一人だけでは弱いんです。それでどうするかというと、ミドル同士で横につながる。そして世論形成をしてしまうんです。「ウチの会社はこっちの方向に行かないと危ない」という世論形成をアンダーグラウンドでやり、世論が後押しする形でトップに進言していく。経営トップが自ら変革するのを待っていたら、多分なかなか実を結びません。となると、カルロス・ゴーンさんのように、変革をするためにトップを外から持ってくるしかない。それがイヤなら、自分たちでトップの背中を押すしかない。それで成功している例はたくさんありますから、そこは勇気を持ってほしいと思います。

-
では、ミドルの人たちを、変革に向けてどうやって動機づければいいのでしょうか。横のつながりを作ってトップの変革を後押しする、といったアクションを評価や報酬、処遇といった外発的な動機づけで引き出すことは難しいし、やるべきではない。むしろやるべきことは、育成・教育の方です。
「そもそも何をやるべきと思うか」というところを意識づけて、そこからミドル自身に「自らを動機づける力」を身に付けさせるべきだと思います。そして、変革が終わったら、取り組んだ人たちに報酬を出すべきです。それは、おカネではなく、新しい“いい仕事”を与えること、要するにポジションを与えるということです。「お前が変えたのだから、お前が動かせ」と。突き詰めて言えば、現経営陣がリタイアして道を譲ることが変革者にとっては最大の報酬になるのではないでしょうか。
その意味から、これからの組織は「下のフラット化」ではなく、世代交代を促すための「上(経営層)のフラット化」を進めるべき。下は階層化ではなく、「小括り化」を進めるべきだと私は考えます。



