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労務行政研究所では、過去3回にわたって、「日本に新しい仕事力を生み出す」ことをテーマに検討を続けて来た。この中で浮き彫りになってきたことが大きく2点ある。一つは求められている仕事力の中身が、かつてとは、大幅に変わって来ているのではないかということである。
一昔前まで「現場レベルで仕事ができる」と言えば、例えば熱い行動力であり、あるいは一つの道を究める職人的なあり方などが、まず、思い浮かんだのではないだろうか。しかし、このプロジェクトでの人事担当者とビジネスパーソン双方に対するアンケート結果から見る限り、このような仕事力のイメージはすでに時代遅れとなっているようだ(session1/session2参照)。2010年代現在、仕事ができると言われるためには、全体を見通す戦略眼を持ち、その上で周囲をプロデュースしていくことができなければならない。個々の現場をマネジメントし、成果を着実に上げていく現場レベルでの「経営」力。これこそが21世紀の仕事力の核となるイメージである。もう一つのポイントは、こうした仕事力が発揮され、そして育まれるのは、何より、活発なコミュニケーションに支えられた職場それ自体なのだ、という認識の深まりである。バブル期からその崩壊後のいわゆる「成果主義」の時代、議論は大きく個人主体の方向に振れていた。例えばバブル期のスペシャリスト志向や、その後の個人業績に基づいた短期的な成果主義人事。これらの発想の背景には、各個人バラバラの力こそが成果を生む源泉である、という暗黙の前提がある。
だが、session2でご紹介したアンケート結果は、どちらかと言えばこれらとは正反対の認識を示しているように思われる。周囲との緊密なコミュニケーションがなければいい仕事はできないし、そもそもいい職場でなければ、中にいる人が優秀でも、いい仕事などできるわけがない。そして、各個人が仕事ができるようになるためには、そうした職場での経験と、そこにおける上司や先輩などからの言葉が最大の糧となる。上記の二つの発見は、個人としての社員の配置・評価・育成に焦点を絞ってきたこれまでの人事制度のあり方にも大きな反省を迫っている。労務行政研究所80周年記念シンポジウム「いま"人が育つ"現場に変えるために」の基調講演で、守島基博一橋大学大学院教授は、この点について、「人材開発から組織開発へ」視点を変えていくべきだという指摘をされている(session3参照)。
単に要員を配置するだけでは、その組織が力を発揮することも、さらに言えばそこに所属した若手社員が仕事力を伸ばしていくことにもつながらない。そこにはメンバーの「協働」や「統合」を達成させていくための組織の作り込みのプロセス、つまり、組織開発の作業がなければならない。これからの人事は、この組織開発のあり方に大きくフォーカスをしていく必要がある。いままでの3回の検討で進めてきたこの流れは、おそらく、多くの読者の方々に共感を得られるものとなっていると思う。だが、私たちとしては、このまま具体論へと進む前に、もう一つ確認しておきたいことがある、と考えている。それは、なぜ21世紀の日本においてこの流れが重要となってきたのか、という問題である。
上記のような考え方自体は、どの時代においても妥当といえば妥当なものの捉え方ではある。だからこそ、いま一度、「なぜ今なのか」ということについて丁寧に確認をしておくことが重要なのではないか。仕事力の捉え方、そのための組織開発の必要性。これが抽象度の高いただの一般論ではなく、現今の課題を解決し得る具体の新たな視座となり得ているのかを詳細に考えておきたい。なぜなら、私たちが先に進んでいくために必要なのは、どの時代にも通用する「一般論」ではなく、目前のヴィヴィッドな状況に対応した個別の「具体論」であるからだ。

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新しい仕事力の議論が、いつの世にも同じ単なる一般論ではなく、2010年代の私たちの課題を解決するものとなっていくためには、何より、いまの時代状況に応じたものとなっている必要がある。高度成長期でも、あるいはバブル期でもなく、その後の失われた20年を経たまさに「いま」に合ったテーマと解決の方向性を提示し得ているかどうか。
このためには、人事や組織の中の議論に閉じこもるのではなく、経済あるいはビジネスの現在のトレンド全体を見据え、そこからの視座で、現在を切り取っていく必要がある。
上記の問題意識を踏まえ、労務行政研究所では、経済界に広いネットワークを持つ日本経済新聞社のご協力を得て、先の80周年記念シンポジウムと対になるもう一つのシンポジウムを開催することとした。今回のシンポジウム、「日本の仕事力は再生できるか」の最大のポイントは、マクロな経済やビジネスのトレンドを起点とし、いま一度仕事力について、そしてそこにおける組織や人事の役回りについて検討を重ねてみることにある。
いままでの仕事力の検討が人事「業界」内のよくある議論に過ぎなかったのか。それともこれからの時代を切り開くためのヒントとなり得るポテンシャルを備えたものとなっていたのか。これを確認するため、今回は、まずマクロな経済・産業・ビジネスの視点からシンポジウムをスタートする。東京大学の伊藤元重教授による基調講演「グローバル化経済に立ち向かうために〜日本の産業、企業、人材に求められる変革とは〜」である。
失われた20年、日本はなぜグローバリゼーションの流れに適応できなかったのか。勃興しつつある新興国経済に対抗しながら、再び成長路線へと向かっていくためには、日本の産業や企業は何をなさなければならないのか。東京大学における研究のみならず、産業構造審議会産業競争力部会部会長、NIRA理事長のご経験を踏まえ、マクロな観点からの時代認識と課題を示していただく。伊藤教授による問題提起を引き受け、企業の経営・組織というミクロな課題へと落とし込む役割を果たしていただくのが、明治大学大学院教授野田稔氏による特別講演「ミドルからスタートする企業の人材改革〜変革に向かう企業組織活性化のあり方とは〜」である。
時代潮流の変化を乗り切っていくためには、その時代に合った経営、そして組織のイノベーションを成し遂げていかなければならない。組織論の研究者であり、また、長年にわたる経営コンサルティングの経験を持つ野田氏からは、2010年代、企業はどのような組織戦略を構築し、その中で、どんな人的資源の力=仕事力を作っていかなければならないか。その見通しを語っていただく。基調講演、特別講演に引き続き、総括となるパネルディスカッション「日本企業に新しい仕事力を生み出すために〜グローバル化時代の人材戦略の向かうべき方向〜」では、時代認識から始まった議論を、再び、人材育成、組織開発、そしてそこにおける人事部の役割というそもそもの仕事力議論のフィールドに再び戻る。2010年代における日本の経済、産業、企業の変化と仕事力の議論はどのように結びつくのか。それはこれまでの3回にわたる議論を裏付けるものとなるのかどうか。
パネルディスカッションのコーディネイターには、引き続き、野田氏に立っていただき、そこに現役の人事部マネージャーであるフリービット株式会社の酒井譲氏、人事と経営をつなぐ豊富なコンサルティング経験を持たれている三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の吉田寿氏、そして今までの仕事力プロジェクトの議論を代表する立場で労政時報WEB編集長の原健が参加する。今回のsession4では、シンポジウムの議論の準備として、伊藤元重氏と野田稔氏の事前インタビューをお送りする。また、シンポジウム自体の再録も、session5で実施する予定である。
仕事力プロジェクトの議論は、時代のトレンドとどう切り結ぶのか。2011年2月24日、日経ホールでのシンポジウム「日本の仕事力は再生できるか〜勝ち抜く経営のための人的資源戦略〜グローバル経済に立ち向かう人材マネジメントとは」の議論に是非ともご期待いただきたい。











