パネルディスカッション 日本企業に新しい仕事力を生み出すために 〜グローバル化時代の人材戦略の向かうべき方向〜

5. 結び一人事がこれから考えるべきこととは

【野田】さて、時間も迫ってまいりましたので、最後にお一方ずつに、これからということの視点で、人事および経営企画、そして経営者の方にエール、メッセージ、要望といったことを、一言ずつお願いしたいと思います。

【酒井】本日はどうも有り難うございました。大分過激なことを言いましたが、実は私も普段の経営会議で話していることは、きっと会場の皆さんと変わらないような普通の悩みです。ただ、世界がこれから破壊的に変わろうとしているのは明らかで、それがどういう方向に向かっていくのかということを、私はなるべく周囲のみんなと多く話すようにしています。

これからどう変わるか、というのは私も神ではないので分かりませんし、今日、お話したこととも大いに間違っているかもしれません。ただ、自分たちで「きっとこうなるからこうしていこう」ということを考え続けていないと、変わっていくことはできません。変わり続ける社会の中で、自ら変化していかなければ間違いなく存在は死んでしまいます。「どう変わるのか」ということに関して、今日の話は忘れていただいて全然構わないので、皆さんの同僚の方々とそういう対話を数多く重ねていただければと思います。

【野田】人事や経営企画が、議論を圧殺するほうではなく、議論をかきたてるほうに回っていくということですね。吉田さん、お願いします。

【吉田】まず、これからの人事は、海外を含めてもっと現場に出向いて行かないといけないと思います。最近、私も中国や東南アジアなどで仕事を機会が増えてきましたが、本社の人事サイドは、全然現場のことを分かっていないのです。あるいは現場の苦労が全然本社サイドに伝わっていない。それは、「現地の人間が一番よく分かっているだろうから、現場にまかせる」という保守的なスタンスの会社がいまだに多いからです。このグローバル化の波に、人事がこれからどう対応していくか。しかも、これはおそらく短期で対応していかなければならないので、かなり考え方を変えないといけない、ということが一つあります。

それから、昔は「人事屋」という言葉がありましたが、これからは「事務屋」「人事屋」「管理屋」といった人事ではダメです。今日のテーマにも関連しますが、「うちの社員の仕事力を高めるために、人事は何をすべきだろう?」とか、「もっと戦略的な視点から、人事施策をどう展開すべきか」という観点から新しいスキルを身につけることが人事部には求められると思います。

現状では、昔ながらの人事の領域だけに収まってしまう人事部門が多くて、例えば、経営計画や戦略から目標がブレークダウンされてきても、「これは経営企画マターなので」「戦略はうちの会社では役員が考えるから」というふうになってしまう。せっかくよい目標管理の仕組みを入れても、途中から分断されてしまって、そこから先のところに何ら影響力を持たない人事部門になってしまうのです。そうした部分で、必要に応じて経営企画も巻き込み、あるいは役員も巻き込み、自社の人事の仕組み、人材マネジメントの仕組みというものを考えていく。そういうスタンスが人事に必要になってくるのではないかと考えています。最近は、経営企画部門の中に人事のセクションを置く例が見られるなど、そうした変化も徐々に現れているようです。

【野田】実は、経営企画部長と人事部長は仲が悪い、という会社は少なくないようです。ある会社で面白かったのは、あえてこの二つの部の部長を入れ替えたのです。そうしたら両方の部長が、会議に一緒に出ないと分からなくなってしまうので、結局二つの部が融合した、ということがありました。これは荒療治の例ですが、人事の戦略家と、ヒューマンリソースと組織がよく分かる経営企画という両方が必要ということですね。原さん、いかがでしょうか?

【原】私からは、当研究所としてこれから皆さんに提供していく新しい取り組みについて、紹介させていただきたいと思います。今、お話がありましたように、これまでの管理的な事務、実務に注力していく人事の社内における位置づけは、おそらく今後は相対的に低くなっていくのではないかと思います。人事部門が経営にとって、あるいは社内の現場にとっての戦略パートナーとして機能していくためには今後さらに情報武装が必要になると考えます。さらには、人事パーソン同士、場合によっては企業を超えるような形でお互いを高め合っていく、そういった動きもこれから出てくるのではないかと思います。

私どもは『労政時報』という人事の専門情報誌を80年にわたって世にお届けしてきました。これまでは賃金交渉や労働条件、人事諸制度をはじめ実務情報を中心に提供してきたのですが、これからはさらに視野を広げて、経営企画的な視点や組織開発の視点、それを動かす戦略をどう考えるかという点などを含めて幅広い情報をカバーしていくためにWEBサイトを通じた情報提供をより強化していきます。

この5月から立ち上げる新サービス『WEB労政時報』では、情報誌の「労政時報」で取り上げた記事が最新刊までリアルタイムでご覧いただけるほか、過去10年分の掲載記事から必要な情報を自由に検索・ダウンロードすることができます。このほか、法令や各種調査など最新情報をアップデートしてお届けするコーナーや、規定・様式のダウンロードサービス、さらにはオンライン会議室などの議論の場も提供していく予定です。こうした新しいサービスを通じて、人事部門の皆さんが、さらに高いステージで活躍できるようなお手伝いをしていきたいと考えております。

【野田】伊藤元重先生の「創造的な破壊」というお話を皮切りに、本日の議論を進めて参りました。我々が「イノベーション」というときは、やはり明るい面にばかりに眼を向けがちですが、それには同時に痛みも伴います。しかし、痛みを恐れていたのでは、本当の意味では生き残れなくなってしまう。人事、経営企画の方々に向けて、私は「バランスが悪くて構わないから、一点突破で、実際にイノベーションを起こすという方向に舵を切っていただきたい」と思います。

私は、日本の企業はまだまだ強いと思っています。非常にポテンシャルがある。だから我々が本気を出して、新しい価値を作っていこうと、みんなで動いたら、まだまだいけると信じております。むしろ、いらないことへのエネルギーが多すぎて、それにエネルギーを取られるから新しいことが生まれないと思っています。ましてや、人事や経営企画が新しいことを行う人たちの足かせになるようになっていたのでは、まったく逆のことで、むしろそれを引っ張り出すような役割として、新価値創造を推進していただきたいと思いました。

これからも皆さんと一緒に勉強を続け、そして行動していきたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。

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