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【原】野田先生のご講演を踏まえて、「仕事力を生み出す組織開発の新戦略」という本日のテーマについて、改めて考えてみたいと思います。
今、不確実性の高いビジネス環境で、数多くのチャレンジを繰り返しながらよいものを見いだし、「選択と集中」を進めていく。このサイクルをハイスピードで回すことができる企業が勝ち残れる、というお話をいただきました。こうした方向性で考えた場合、現状みられる大括りのフラット組織ではやはり対応しづらい部分が少なくないと思います。そこで改めて、先生がお考えのフラット組織の問題点について、まずおうかがいしたいと思います。
【野田】もちろん、組織のフラット化にはいろいろな効用もあります。昨日の夜、明治大学で組織のフラット化について講義しました。講義を受けている学生は、大部分が会社通いの社会人なのですが、その人たちの多くは「フラット化でひどい目にあった」と話していました。でも一方で、「フラット化したことには意味はあった」とも言うんです。それは何かというと、それまで「マネージャーです」という顔をしながら何もしていなかった"フリーライダー"が、フラット化で現場に戻り、昔取った杵柄で戦力になる。これが短期的には、組織へのカンフル剤として、とても有効に機能するわけです。トヨタ自動車もそうでした。1989年ごろ、海外進出が本格化した時期に、腕のある多くのミドルマネージャーが現場に立ったことは、短期的にはトヨタ自動車の突進力を高めたと言えると思います。
しかし、そうしたメリットもある一方、最悪なのは、やはり人材育成の立ち遅れです。誰もメンバーの面倒を見なくなるので、組織としての拡大再生産ができなくなってしまう。もう一つ、以前から言われていることですが、フラット組織というのは「自己変革力」が弱い。仕事の単位が大きくなりすぎると、仕事の全容を把握することが非常に困難になり、どこでどんな無駄が生じているかとか、どこをどう変えるべきかということを、誰もつぶさに見ていない状態になるわけです。
実際、業務に邁進していると、「木を見て森を見ず」で全体像はなかなか把握できませんから、大きな組織では各所に問題が隠れたままになりがちです。やはり、ある程度は小括り化して、誰かがちゃんと見るという役をつけないといけないと思います。【原】トヨタ自動車の場合は、2007年ごろから「人を育てる」という観点を重視して、小括り化にしたわけですね。
【野田】実際には、2002年から「ポスト・フラット化」の取り組みが始まっていました。それまで100人単位くらいの組織に1人の管理職だったのを、平均して20人単位に切り分けていって、グループ長、課長を復活させた。加えて、そのグループを2つないし3つ、平均して50人くらいを束ねる役割として室長を復活させる――という形で階層化したんです。
小括り化の目的は「人材育成」と「業務の開発」ですが、実はもう一つあって、それが「イノベーティブ」なんです。やはり大きな範囲の中でざっくりと物事を見ていると、本当の問題にはなかなか気付けない。自分の視野を狭めて、「ここの問題は100%解決する」と言った瞬間に問題が見えてくる。組織の小括り化には、視野を狭めることによって、より深くものが見えるようになり、課題への気付きが生まれるという効果があるのではないかと思っています。 -

【原】一方、イノベーションのチャンスにたどりつくためには、小括り組織が一所懸命動いていくだけでなく、お互いにかかわり助け合いながら新しいものを作り出していく取り組みも必要と思います。そのために、小括り組織を結び付けるコミュニケーションの仕組みやコミュニケーションのための発信力も重要なポイントになると思います。先生のお話しではアントヒル・コミュニケーションの例をご紹介いただきましたが、こうした部分について考えていく必要があるのではないでしょうか。
【野田】おっしゃるとおりで、もしかしたらそれが一番大事なことかもしれません。日本はどちらかというと「平時」を長く続けてきたので、コミュニケーションそのものが効率化重視の方向に流れてきたと思うのです。効率化したコミュニケーションの最たる例が、「あうんの呼吸」と言われるようなコミュニケーションスタイルだと思います。
しかし、これからはより説明的なコミュニケーションスタイルが必要になってきます。小括り化された組織同士は、お互いのことをよく分かっていないので、「俺達は今、こんなことをやっている。こんな課題があって、こんな新しいことができて、面白いと思わない?」といったことを、お互いがちゃんと口に出して伝えて共有していくという仕組みが絶対に必要なんです。
ここで問題になるのは、今までのコミュニケーションスタイルと説明的なコミュニケーションスタイルが明らかに違っているので、戸惑う人が多いだろうということです。「あの時のあれ、ちゃんとやっておいてよ」「すいません。ちゃんとやっておきますから」なんていう会話では、当人同士で通じていても、周りで聞いている人たちは何を言っているのかサッパリ分からない。
要するに、"ちゃんと説明するコミュニケーション"のクセをつけるということです。「この仕事は何のためにやるんですか?」とか「私たちのターゲットは誰でしたっけ?」といったことも含めて。そういう意味で、特に上位者の説明能力を絶対につけていかなければいけない。小括り化したリーダーは、リーダーとしての対外的・対内的説明力というものを徹底的に磨く必要がある。これはかなり大きな問題だと思います。 -

【原】それが現場でリーダーシップを発揮するための第一歩につながるということですね。先ほどのお話にもあった、小括り組織が自律的に活動していくためのミドルアップ&ダウンのリーダーシップ、先生の著書ではユビキタス・リーダーシップとしても触れられていますが、これからの組織を動かしていくためのリーダーシップ開発に関してはどんな取り組みが必要でしょうか。
【野田】もちろん、リーダーシップ教育と言われるような研修などは大切だと思います。ただ、日本ではこれがあまりに軽視されてきています。多くの企業では、新任課長になってからいきなりリーダーシップ教育という感じではないですか? ゼネラル・エレクトリック(GE)などは、入社したときからリーダーシップ教育がスタートします。部下のいる・いないは関係ありません。まさにユビキタス・リーダーシップです。
私はリーダーシップを、「他人に影響力を行使して、望ましい行動を起こさせること」と定義しています。一言で言うと「巻き込む力」。これがリーダーシップだと思っています。ということは、新入社員であっても同僚を巻き込む力、逆に上司を巻き込んで事をなしていく力が必要とされるわけですから、まさに全社員が自発的なリーダーシップを発揮すべきなんです。そこで、研修だけでいいかと言われると残念ながら十分ではありません。まず研修はしてほしいし大切なのですが、リーダーが育ちやすい組織構造というものも当然バックアップしなければいけない。昔、『坂の上の雲』のころ、1900年代の初頭ですが、日本の人口は4500万人くらいでした。それが1968年に1億人を突破して、2004年には1億3000万人弱まで達しました。つまり、約100年かけて8000万人増えたわけです。4500万人からプラス8000万人というのは、ものすごい成長といえます。こうした成長の上り坂にあるときは、とにかくチャンスが多いわけです。マーケットが広がり続けているから、当然人手が足りない。人手が足りないところにやることがたくさんあって、チャンスが多く巡ってくるわけですから当たり前のこととして人が育ったんです。
よく「リーダーは育つものなのか、育てるものなのか」という議論があります。上昇期を知っている人は「育つもの」だと言う。それはそのとおりです。チャンスがたくさんあったわけですから。でも、これから先はチャンスが減る社会なので、「育てる」ことが必要です。そのとき、修羅場をくぐらせることが、やはり「育てる」コツの一つと言えると思います。そうすると、小さなカンパニーのような小括り組織で、言ってみれば擬似的なカンパニーなのですが、その中で修羅場をくぐらせるということです。今、中国や韓国で人が育っていて「スゴイですね」と言いますが、それは当たり前なんです。かつて日本がそうだったように、成長期には放っておいても人は育ちます。でも衰退期には育てなければ無理です。ですから、小括り化している組織というのは、"擬似的につくった新興国"のようなものだと思っていてください。ソニーやホンダが起業したときのような、ベンチャーのような組織を小括り化組織となぞることができるのではないかと思います。そうして、いい経験を数多く積ませ、トライ&エラーを繰り返させながら段々とリーダーとして育てていくべきだと思います。
【原】よく分かりました。本日議論させていただいたように、これからのビジネスと人材の育成に向けて、組織の小括り化への取り組みを一つの流れとして考えた場合、具体的な組織のデザインをどう考えていくか、小括り組織の中でどのように経験を積ませ人を育てていくかなど、さらに多くの課題が浮かび上がってくると思います。
本日は時間が参りましたので、この先の議論は次の機会に譲りたいと思います。
本日の議論を踏まえ、今後もプロジェクトでは「仕事力」の研究を進めてまいりますが、これからはプロジェクトの情報を発信しているWEBサイトに、オンライン会議室の形で多くの方々からご意見をいただき、議論を展開する場を設けたいと考えています。ぜひ野田先生にもご参画いただければ思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。皆さま、本日は長時間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。



