『キャリアコンサルタント・人事パーソンのためのキャリアコンサルティング』に関する内容更新

[2023年4月27日更新]


※黄色の網掛け部分が今回の更新箇所

第1章 キャリアコンサルティングと企業人事部門

P30

 2020(令和2)年に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」では、「経営における人材や人材戦略の重要性はこれまで以上に増して」おり、人事部はこれまで人事施策のオペレーションを中心に担ってきたが、「ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある」と指摘している。併せて、HR テクノロジーの適切な活用や、個人の自律的なキャリア構築の支援も重要だとしている。2022(令和4)年に経済産業省が公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」には、具体的な事例も示されている。

参考文献

・経済産業省(2022)「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」.

第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P138

新規追加

Column

多様な正社員(限定正社員)


 意外な感じがするかもしれないが、「正社員」の明確な定義はないとされている。直接雇用されている無期契約労働者のうち、各企業で正規従業員として位置づけられている社員を「正社員」と呼んでいるのである。このため、「いわゆる正社員」という呼び方がされることも多い。
 「いわゆる正社員」は、一般に、①雇用期間の定めがない、②直接雇用である、③フルタイム勤務である、の三つを満たす者とされる。雇用が保障され、賃金なども有利でキャリア開発機会もあるが、転勤や長時間労働などが難しいために、この働き方を選択できない労働者もいる。
 一方、日本は、労働力不足に直面しており、多様な人材に力を発揮してもらわなければいけない。そこで推進されているのが、職務、勤務地または労働時間を限定した「多様な正社員」(「限定正社員」ともいう)である。
 この限定正社員をうまく導入できれば、企業は、勤務地や勤務時間などに制約のある優秀な人材の活用が可能となる。労働者は、ワーク・ライフ・バランスの実現やキャリア形成、処遇の改善が可能となる。「多様な正社員」の普及を図ることが重要となってきている。

参考文献

・厚生労働省(2014)「「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」

P173

 最近では、ダイバーシティだけでなく、インクルージョン、さらに、エクイティも必要であるとされ、ダイバーシティ&インクルージョン、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン、として言及されることが増えている。
 インクルージョンとは、ショアら(Shore et al., 2011)の定義をより分かりやすく言えば、「個人が、職場において、メンバーとみなされ、自分らしさを発揮できる状態」である。多様性に加えて、メンバーとして帰属感を持つことができ、自分らしさが尊重され、発揮できることが求められるようになってきている。
 エクイティとは、公平という意味である。社会には特定の属性を持つ人が不利益を被る仕組みが組み込まれていることがある。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンは、このような仕組みがあることを認めた上で、誰もが公平に活躍できるよう環境を整備し、ダイバーシティ、インクルージョンを実現していこうという考え方である。

P177

新規追加

(5)フリーランス
 2020年に内閣官房が中心となり、関係省庁が連携して行った調査を基にした試算によると、フリーランスの形態で仕事をする者は462万人(本業214万人、副業248万人)で、増加しているという。
 フリーランスは「実店舗はなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者(農林水産従事者は除く)」とされ、営業、講師・インストラクター、建設・現場作業、デザイン・コンテンツ制作、配送・配達など多様な仕事を行っている。
 フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、2021(令和3)年3月に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されたが、報酬の支払い遅延や一方的な仕事内容の変更といったトラブルを経験した者も増えており、旧来の中小企業法制では保護できないことも多い。このため、内閣官房を中心に、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、厚生労働省で検討がなされ、2023(令和5)年2月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)が閣議決定され、国会に提出されたところである。

(6)ジョブ型雇用
 (本文変更なし)

(7)人的資本の情報開示
 2023(令和5)年1月に、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(改正開示府令)」が成立・公布され、2023(令和5)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から、開示が求められるようになった。改正開示府令により、従業員の状況やサステナビリティに関する考え方及び取り組みに関する情報の開示が求められる。従業員の状況については、新たに、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差についての記載が求められるようになった。また、サステナビリティに関しては、ガバナンスやリスク管理に加え、人材の育成方針や社内環境整備方針、さらに、これら方針に関する指標や目標・実績について記載することが求められるようになった。
 こうした人的資本情報開示の背景には、非財務情報開示の動きがある。ヨーロッパでは、2000年ごろから、年次報告書に掲載されない非財務情報が企業価値と連動していることに着目する動きがあり、2018(平成30)年には、「人的資本に関する情報開示のガイドライン(ISO30414)」が発行された。日本でも、2021(令和3)年6月に「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」が改訂され、人的資本や知的財産への投資を開示すべきとの文言が追加された。さらに、2022(令和4)年8月には「人的資本可視化指針」が取りまとめられ、2023(令和5)年の改正内閣府令につながる。さらに、厚生労働省が2022年10月に策定(2023年〔令和5〕年4月更新)した「『賃上げ・人材活性化・労働市場強化』雇用・労働総合政策パッケージ」には、「職場情報の開示に関するガイドライン(仮称)」を策定することなども盛り込まれている。
 一方、趣旨は異なるが、既に、女性活躍推進法、次世代育成支援対策推進法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法などでも、人的資本に関する情報の公表が定められている。本書でも紹介している「女性の活躍・両立支援総合サイト」(317ページ)、「両立支援のひろば」「若年雇用促進総合サイト」 、「職場情報総合サイト『しょくばらぼ』」(317ページ)などのほか、各種認定・表彰サイトでも、企業の人的資本に関するさまざまな取り組みが公表されている。

参考文献

・非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」(令和4年8月30日)

・金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(令和5年1月31日)

P177

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Column

ウェル・ビーイング(well-being)


 最近よく聞かれるようになった言葉のひとつに「ウェル・ビーイング」がある。「ウェル・ビーイング」とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念である。この言葉を初めて使ったとされる、世界保健機関(WHO)憲章の前文には、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます(日本WHO協会:訳)」と書かれている。
 OECD の「より良い暮らし指標(Better Life Index)」は、住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワーク・ライフ・バランスの計11項目からなる。
 ウェル・ビーイングの問題を取り扱った平成30年度雇用政策研究会報告書では、「就業面からのウェル・ビーイングの向上」について、「働き方を労働者が主体的に選択できる環境整備の推進・雇用条件の改善等を通じて、労働者が自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を送れるようになることにより、自らの権利や自己実現が保障され、働きがいを持ち、身体的、精神的、社会的に良好な状態になること」を指すとしている。
 よく使われる言葉となったが、就業という観点から見た場合、ワーク・ライフ・バランスが含まれていること、主体的選択に意味があることなど、覚えておくとよいだろう。

引用文献

・世界保健機関(WHO)憲章とは|公益社団法人日本WHO協会(2023年3月31日閲覧)
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

・厚生労働省「平成30年度雇用政策研究会報告書 ―人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」

・OECD Better Life index
https://www.oecdbetterlifeindex.org/#/11111111111

・OECD「より良い暮らし指標(Better Life Index: BLI)について」
https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm

P177

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Column

ワーク・エンゲイジメント


 「ワーク・エンゲイジメント(Work Engagement)」は、オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリらが提唱した概念で、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の三つがそろった状態と定義される。特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態でなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知によって特徴づけられる(Schaufeli, et al, 2006)。ワーク・エンゲイジメントには、ワーク・モチベーション、組織コミットメント(146ページ)などさまざまな類似する概念があり、部分的に重複する面もあるが、付加価値を加えた固有の概念となっているとされる(厚生労働省,2020)。
 ワーク・エンゲイジメントの高い人は、仕事にやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ていきいきとしている状態にあるといえるが、日本人労働者のワーク・エンゲイジメントは顕著に低いことが指摘されている(Shimazu et al, 2010)。
 [参考10]は、島津(2009)が、活動水準と仕事への態度・認知の2軸で、ワーク・エンゲイジメントと関連する概念との関係を示したものである。ワーク・エンゲイジメントでは、活動水準が高く、仕事への態度・認知は肯定的だが、いわゆる燃え尽き症候群であるバーンアウトでは、活動水準が低く、仕事への態度・認知は否定的である、また、過度に一生懸命に強迫的に働くワーカホリズムでは、活動水準は高いが、仕事への態度・認知は否定的であることが分かる。

[参考10]ワーク・エンゲイジメントと関連する概念

資料出所:島津明人. (2009) 職場のポジティブ心理学: ワーク・エンゲイジメントの視点から. 産業ストレス研究, 16, P.133.を基に、筆者改変

引用文献

・Schaufeli,W.B.,Bakker,A.B.,Salanova,M(2006)The measurement of work engagement with a short questionnaire : A cross-national study, Educ Psychol Meas,66,701-716.

・島津明人.(2009) 職場のポジティブ心理学: ワーク・エンゲイジメントの視点から. 産業ストレス研究, 16(3), 131-138.

・厚生労働省(2020)「令和元年版 労働経済の分析─人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について─」

・Shimazu,A.,Schaufeli,W.B.,Miyanaka,D, & Iwata,N.(2010)Why Japanese Workers Show Low Work Engagement:An Item Response Theory Analysis of the Utrecht Work Engagement Scale,” Bio Psycho Social Medicine 4:17.

P196

(4)障害者雇用促進法および同法に関する法制度
 法定雇用率は、2021年3月1日に引き上げられたところであるが、以下のとおり、2024(令和6)年度、2026(令和8)年度と段階的に引き上げられる

事業主区分 2023(令和5)年度 2024(令和6)年4月 2026(令和8)年7月
◦民間企業 2.3% 2.5% 2.7%
◦国および地方公共団体等 2.6% 2.8% 3.0%
◦都道府県等の教育委員会 2.5% 2.7% 2.9%

 同法は、最近では2019(令和元)年に改正され、民間の事業主に対する措置として短時間労働者のうち週所定労働時間が一定の範囲内にある者を雇用する事業主に対する特例給付金や、障害者雇用の取り組みの進展を目的として、障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)の創設等に関する措置が講じられた(2020〔令和2〕年4月1日施行)。さらに、2022(令和4)年に改正され、多様な就労ニーズにさらに応えられるよう障害者の算定方法が見直されるとともに、助成金の新設・拡充など事業主支援の強化や、就労アセスメント結果を踏まえて職業指導を行うなど障害者福祉と障害者雇用の連携強化が図られることとなった(一部を除き2024〔令和6〕年4月1日から施行)。

第4章 キャリアコンサルティングを行うために必要な技能

P313

・求職活動をする
 求職活動でのステップとjob tagの活用について[図表4-16]に示す。
 job tagでは、求職活動の流れに沿って、job tagを活用しながら求職活動を進めるための「求職ガイド」を提供している。「求職ガイド」には、併せて、その過程で使用するためのワークシートも掲載されている。また、2022(令和4)年秋からは、マイジョブ・カードからjob tagを参照したり、job tagのマイリストをマイジョブ・カードに保存したりできるようになった。未経験職種へのキャリアチェンジ事例も掲載されるようになった。さらに、2023(令和5)年3月から、職業情報詳細画面の「訓練検索」ボタンから、学びを応援するサイトであるマナパス(136ページ)にリンクし、関係する講座情報を検索できるようになった。
 このほか、求職活動をする上で役に立つ労働法の基礎知識や働きたい地域の最低労働賃金一覧などのページにアクセスすることもできる。

P317

新規追加

④その他仕事探しの支援に役立つ情報など
 4[2](1)でも示しているとおり、新たに仕事に就いた者の入職経路を見ると、広告(求人情報誌・インターネット等も含む)が最多である。多くの求人情報誌、インターネットサイトがあるが、2022(令和4)年の職業安定法の改正により、利用者が安心してサービスを利用することができるようにするために、募集情報等提供事業者(求人メディア等)に、募集情報等を的確に表示することや苦情処理等が義務づけられた。
 また、一定の基準を満たした事業者を優良事業者として認定する制度(優良募集情報等提供事業者認定制度)が創設され、2023(令和5)年3月に最初の認定が行われた。こうした情報を活用することにより、優良な募集情報等提供事業者を把握できるようになった。

優良募集情報等提供事業者認定マーク

優良募集情報等提供事業者認定マーク
認定された事業者は、厚生労働省の運営する人材サービス総合サイトや当認定制度ホームページ等に掲載される。求職者・求人者は、認定制度により、安心して利用できる優良な募集情報等提供事業者の判別・選択が行いやすくなり、募集情報等提供事業者にとっても、求職者・求人者からの社会的な信用の向上などが期待できる。

参考文献

・厚生労働省「「優良募集情報等提供事業者」15社を初認定!」(2023年3月31日)

[2022年12月28日更新]


※黄色の網掛け部分が今回の更新箇所

第1章 キャリアコンサルティングと企業人事部門

P30

(2)人事部門でこれまで以上に求められるようになったこと
 新しいところでは、2020(令和2)年に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」がある。それによると、「経営における人材や人材戦略の重要性はこれまで以上に増して」おり、人事部はこれまで人事施策のオペレーションを中心に担ってきたが、「ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある」と指摘している。併せて、HRテクノロジーの適切な活用や、個人の自律的なキャリア構築の支援の重要性についても指摘している。さらに、2022年5月26日には、「人材版伊藤レポート2.0」が公表され、人的資本を重視した経営を具体化し、実践していくために、取り組み事例が提示された。

Column

人材版伊藤レポート


 「人材版伊藤レポート」(2020年9月30日)では、企業価値の持続的向上につながる人材戦略を策定・実行することを経営陣に求めたもので、以下の「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」を提示している。

・3つの視点(Perspectives)

①経営戦略と連動しているか

②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか

③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか

・5つの共通要素(Common Factors)

①動的な人材ポートフォリオ

②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

③リスキル・学び直し

④従業員エンゲージメント

⑤時間や場所にとらわれない働き方

 「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月26日)のほうは、人的資本を重視した経営を具体化し、実践していくために、取り組み事例を提示したものである。
 ヒトへの投資は、キャリアと大いに関係する。両レポートには、「キャリアコンサルティング」という言葉自体は含まれていないが、「個と組織の関係性」について、「相互依存」から「個の自律・活性化」へと変革を図る必要があるとされているなど、キャリアコンサルティングと関わりが深い。
 両レポートに書いてあることは、日頃、人事やキャリアのことばかり考えている者の眼から見れば、当たり前のようなことも多いかもしれないが、人事やキャリアの世界の外から、ヒトの問題を指摘し、情報開示など資本市場の力なども借りて、その重要性を経営層に訴えかけるものだという見方もできる。キャリアコンサルタント、人事パーソンとも、両レポートをきっかけに、当事者として人的資本への投資に関わっていることを改めて意識し、さらに、人事やキャリアの世界だけでなく、その外の広い世界にも目を向けてみてはどうだろうか。

引用文献

・経済産業省(2020)『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~』.

・経済産業省(2022)『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)』.

第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P130~133

(4)ジョブ・カード
 ジョブ・カードは、政府が推し進める「生涯を通じたキャリア・プランニング」のツールであり、「職業能力証明のツール」である。キャリアコンサルティングの際に用いるツールの一つだが、教育訓練プログラム、能力評価シート等による能力評価などを用いた総合的な支援の仕組みであり、政府が職業能力開発施策の一つとして推し進めているものであることから、以下において説明する。

①ジョブ・カード制度の概要

◉ジョブ・カード制度の創設
 ジョブ・カード制度は、2008(平成20)年4月に、非正規雇用労働者など職業能力形成機会に恵まれない者の職業能力を向上させ、安定的な雇用への移行を促進することを目的に創設された。「ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングの実施」と「座学と実習を組み合わせた訓練を含む実践的な職業訓練(職業能力形成プログラム)の受講機会の提供」等を行うもので、「全国推進基本計画」(2008[平成20]年6月30日ジョブ・カード推進協議会)に基づき普及促進が図られてきた。
 その後、「新全国推進基本計画」(2011[平成23]年4月21日ジョブ・カード推進協議会)において、職業能力形成機会に恵まれない者に限らず、求職者、在職者や学生等に対しても幅広く活用を図ることとされ、見直しを行いつつ、推進が図られてきた。

◉新ジョブ・カード制度
 その後「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)を踏まえ、ジョブ・カードを「生涯を通じたキャリア・プランニング」および「職業能力証明」のツールとし、求職活動、職業能力開発などの各場面において活用すべく見直しが行われた。
 さらに、2015(平成27)年改正職業能力開発促進法において、国は職務経歴等記録書(ジョブ・カード)の普及・促進に努めることとされた。これに基づき、新たな様式(平成27年9月30日 厚生労働省告示第408号)が定められるとともに、「新ジョブ・カード制度推進基本計画」が策定された。こうして2015(平成27)年10月1日から、新ジョブ・カード制度に移行した。
 新たな様式は、「様式1 キャリア・プランシート」「様式2 職務経歴シート」「様式3 職業能力証明シート(様式3-1 免許・資格シート、様式3-2学習歴・訓練歴シート、様式3-3 訓練成果・実務成果シート)」から構成されている。

◉大臣告示様式の弾力化と「キャリア・プラン作成補助シート」の導入
 2018(平成30)年4月より、ジョブ・カード大臣告示の様式1-1(キャリア・プランシート)、様式1-2(学生等用のキャリア・プランシート)、様式2(職務経歴シート)、様式3-1(職業能力証明[免許・資格]シート)および様式3-2(職業能力証明[学習歴・訓練歴]シート)の各注意事項の最後に、「必要があるときは、各欄を区分し、または各欄に所要の変更を加えることその他所要の調整を加えることができます」との弾力化規定が盛り込まれ、これら様式について、利用者・機関のニーズや使い勝手に合わせたジョブ・カード様式の編集が可能となった。
 また、在職者用、学生用および求職者用に分かれた「キャリア・プラン作成補助シート」の導入により、ジョブ・カード様式1-1および1-2を活用したキャリア・プランの作成を円滑に進めることが可能となった。
 さらに、ジョブ・カードの職業能力証明としての機能を強化するものとして、2020(令和2)年4月から「実践的能力証明シート」(ジョブ・カード準拠様式)を導入した。

Webサイト「マイジョブ・カード」(ジョブ・カードのオンライン化)
 2022(令和4)年10月26日、Webサイト「マイジョブ・カード」(https://www.job-card.mhlw.go.jp/)が公開された。
 これにより、ジョブ・カードがデジタル化され、オンライン上で作成・管理・更新できるようになった。また、履歴書や職務経歴書を簡単に作成できるようになった。「お知らせメール」の受け取りを設定することにより、キャリア形成に役立つ情報を取得することも可能となった。
 「マイジョブ・カード」は、ハローワークインターネットサービス(第4章2.[3](2)②❶参照)やjob tag(職業情報提供サイト[日本版O-NET]。第4章2.[3](2)①❶参照)とも連携している。これにより、ハローワークインターネットサービスに登録した求職情報を使って、ジョブ・カードを作成したり、逆に、マイジョブ・カードで作成したジョブ・カード情報を使ってハローワークインターネットサービスで求職登録したりすることができる。job tagの機能を使って、職務の内容、入職経路、労働条件の特徴や、その職業で働いている人たちの「しごと能力プロフィール」などを参照しながら、キャリアを分析したり、能力・スキルを評価したりすることもできる。

※より具体的に言えば、アカウント登録を行うことにより、オンライン上でジョブ・カードを作成・保存・更新できるようになった(アカウント登録を行わなくとも、マイジョブ・カードの作成は可能である)。また、マイナポータル経由でもシングルサインインで利用することができるようになった。

[図表3-28]「マイジョブ・カード」の概要

資料出所:厚生労働省「ウェブサイト「マイジョブ・カード」を本日公開しました」(2022年10月26日)別添資料2

 「マイジョブ・カード」は、学生や求職者のほか、在職者やキャリア支援をする方(学校関係者、企業関係者、キャリアコンサルティング関係者)も対象としている。それぞれに対し、以下のことを提案している。

・学生:項目を埋めていくことにより、自分の強み・弱みややりたいことを明確にでき、自己分析や自己PRなどに役立てることができる。相談したり、就職支援を受けたりしながら、作成していくことができる。

・求職者:作成することにより、応募先で活かせる能力・強みに気づき、これを盛り込むことができる。履歴書や職務経歴書を自動作成することができる。相談したり、就職支援を受けたり、職業訓練を受けたりしながら、作成していくことができる。

・在職者:実務上で得た職業能力を「見える化」したうえで、今後のキャリア・プランをイメージし、その実現のために取り組むべきこと(例えば学び直し)を明確にし、キャリアの変化に的確に対応することができる。

・学校関係者:学生に作成させることにより、卒業や就職までのビジョンを意識させることができ、キャリア教育を効果的に進めることができる。有意義な学生生活、適切な職業選択のサポートができる。

・企業関係者:採用から人材育成、人事評価、適正配置など、人事のさまざまな場面で活用することができる。

・キャリアコンサルティング関係者:キャリアについての相談や支援の中でジョブ・カードを活用することにより、その効果を高めることができる。例えば、キャリアコンサルティングを受ける方に、あらかじめジョブ・カードを作成してもらうことで、限られた時間を効率的に使って、自己理解、仕事理解の気づきを促し、キャリア・プランニングを支援することができる。

②キャリア・プランニングツールとしてのジョブ・カードの活用
 ジョブ・カードは「生涯を通じたキャリア・プランニング」のツールとして、個人自らが、自己理解、仕事理解、職業経験の棚卸しを行い、キャリア・プランを作成する際に有効なツールである。
 ジョブ・カードを用いたキャリア・プランの作成に当たっては、キャリアコンサルタント等の支援を受けながら作成を進めていくことが望ましいが、その際に活用できる情報等を以下に示す。「マイジョブ・カード」のほかにも、活用できる情報等があるので、以下に示す。

◉ジョブ・カード制度総合サイト
 https://jobcard.mhlw.go.jp/
 ジョブ・カードの各様式やその記入例、ジョブ・カード活用ガイドのほか関係情報を掲載している。また、ジョブ・カード作成支援、履歴書・職務経歴書が作成できる「ジョブ・カード作成支援ソフトウェア(Web版含む)」の提供やLINEによる情報発信も行っている。

◉ジョブ・カード活用ガイド
 https://jobcard.mhlw.go.jp/advertisement/download.html
 ジョブ・カード活用ガイドは、ジョブ・カードを初めて作成する者でも作成趣旨や方法を容易に理解できるようにするために制作されたものである。ジョブ・カードを作成する趣旨・作成方法・活用方法の説明、自己理解のためのワーク、記入例、ジョブ・カードの様式などが掲載されている。
 幅広い年代の者を対象とした「汎用版」と、おおむね40歳前後以降の職歴のある者を対象とした「キャリアを重ねた方向け」の2種類がある。
 その構成は以下のとおりとなっている。

○ジョブ・カードの趣旨や活用方法の説明

○自己理解を深めるための四つの事前ワーク(これまでの人生[職業人生]を振り返る、興味・関心のある分野を探す、大事にしたい価値観を理解する、「強み」と「弱み」を知る)

○ジョブ・カード様式への記載

 なお、ジョブ・カードはどの様式からでも作成できるが、ジョブ・カード作成の準備として「事前ワーク」に取り組んだ上で、様式2(職務経歴シート)、様式3-1(職業能力証明[免許・資格]シート)および様式3-2(職業能力証明[学習歴・訓練歴]シート)、様式1(キャリア・プランシート)の順に作成することを勧めている。
 ジョブ・カードを作成しない場合でも、求職者が「事前ワーク」に取り組むことは、求職活動の準備として有効である。

◉ジョブ・カード講習について
 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jobcard_system/jobcard_koshu/index.html
 ジョブ・カード作成支援アドバイザー養成のために実施していたジョブ・カード講習(2019[平成31]年3月末に廃止)のテキストや動画が掲載されている。講習のテキストや動画では、ジョブ・カードの目的と仕組みの理解やジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングの流れ、対象者別の支援方法の詳細を解説している。

キャリア形成サポートセンター
 厚生労働省は、2020(令和2)年4月よりジョブ・カードセンターを再編・整備し、労働者のキャリア・プラン再設計や企業内でのキャリアコンサルティング機会の導入等を支援する拠点として「キャリア形成サポートセンター」を設置した。
 キャリア形成サポートセンターでは、個人(在職者)、企業、学校などを対象に、ジョブ・カードを活用し、さまざまなキャリア形成支援を無料で行っている。
 2022(令和4)年4月1日現在の実施体制は、中央キャリア形成サポートセンター(東京都に1カ所)のほか、地域キャリア形成サポートセンター(全国19カ所、東京とは中央キャリア形成サポートセンターと同一拠点)である。北海道、宮城、東京、神奈川、長野、愛知、大阪、兵庫、広島、香川、福岡の地域センターには、セルフ・キャリアドック導入支援拠点が併設されている(11カ所)。
 地域キャリア形成サポートセンターでは、以下のことを行っている。

・労働者に対する専門的なキャリアコンサルティング機会の提供

・ジョブ・カードを活用した採用活動や従業員の人材育成等を実施する企業等への支援

・ジョブ・カードを活用した雇用型訓練を実施する企業への支援

・セルフ・キャリアドック導入支援(相談支援・技術的支援、セミナー・研修等)

・ジョブ・カード制度およびセルフ・キャリアドックの周知広報

参考文献

・厚生労働省「マイジョブ・カード」https://www.job-card.mhlw.go.jp/

・厚生労働省「ウェブサイト「マイジョブ・カード」を本日公開しました」(2022年10月26日)

P136

[4]職業能力開発関連のサイト
 本節の記載に関して、役に立つ情報が掲載されているサイトとしては、厚生労働省ホームページのほか、以下のものがある。

ハローワークインターネットサービス(第4章2.[3](2)②❶参照)

職業情報提供サイト(日本版O-NET)(愛称:job tag[じょぶたぐ])(第4章2.[3](2)①❶参照)

マイジョブ・カード(第3章3.[2](4)①参照)

・ジョブ・カード制度総合サイト(第3章3.[2](4)参照)

・キャリア形成サポートセンターサイト:https://carisapo.mhlw.go.jp/

・マナパス:https://manapass.jp/
社会人の大学・大学院等での学びを応援するサイト(全国の講座情報や学び直し支援制度情報を検索できる)

・巣ごもりDXステップ講座情報ナビ:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/sugomori/
誰でも、無料で、デジタルスキルを学ぶことのできるオンライン講座を紹介するサイト

[2022年9月29日更新]


※黄色の網掛け部分が今回の更新箇所

第1章 キャリアコンサルティングと企業人事部門

P23~24

Column

コンサルタントの法制化までの道のりと能力体系


 2018年度の見直し後の能力体系は、2020(令和2)年4月から施行されている(能力体系については、このコラムの前に示した[資料1]参照のこと)。
 その後、学び・学び直しの必要性が指摘される中で、2022(令和4)年3月の職業能力開発促進法改正により、キャリアコンサルティングの推進に係る事業主・国等の責務に関する規定が整備された。さらに、同年6月に策定された「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」でも、随所に、キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタントに関する記載がなされている(同ガイドラインについては、160ページに掲載しているコラムを参照のこと)。企業領域におけるキャリアコンサルタントの重要性はさらに高まりそうだ。

第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P124

 また、「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」(令和3年11月8日新しい資本主義実現会議決定)では、「人的資本への投資の支援を強化する3年間の施策パッケージを設け、民間の知恵を求める」とされた。さらに、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)では、「成長と分配の好循環」の実現を図るため、働く人や成長の恩恵を受けられていない人への分配機能の強化、リスキリングや労働移動円滑化など、「人」への投資を強化するとされた。2022(令和4)年1月にかけて、人的資本への投資を抜本的に強化するために、3 年間で4000 億円規模の施策パッケージを実現すべく、総理自ら国民にアイデアを募るなど力を入れているところである。
 2022(令和4)年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」でも、重点分野として「人への投資」が掲げられ、①3年間で4000億円規模の施策パッケージを講ずる、②非財務情報の開示ルールを策定する、③社会全体で学び直し(リカレント教育)を促進するための環境を整備する、などに取り組むこととされている。
 学び直し(リカレント教育)については、後掲のコラム「リスキリング(再教育)やリカレント教育に関する動きなど」もご覧いただきたい。

P135

Column

リスキリング(再教育)やリカレント教育に関する動きなど


 2021(令和3)年12月21日、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会会長から、厚生労働大臣に対し、「学びの好循環」の実現に向けた建議が行われた。建議というのは、こうするとよいといった意見を役所などに上申することである。
 背景には、DXの加速化やカーボンニュートラルの対応など、労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化していくことが予想されていること、職業人生の長期化が進んでいることがある。これにより、リスキリングやリカレント教育の重要性が高まっている。労働者がこうした変化に対応して、自らのスキルを向上させるためには、企業主導型の職業訓練を強化するとともに、労働者が自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを行うことが必要である。こうした取り組みに対し、広く継続的な支援が重要になるというのである。
 こうしたことを受けた検討、国会審議などを経て、2022(令和4)年3月に職業能力開発促進法が改正され、さらに、同年6月に「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」が策定された(同ガイドラインについては、160ページに掲載しているコラムを参照のこと)。

P160~

(3)職場における学び・学び直し推進ガイドラインの策定
 2022(令和4)年6月29日に、厚生労働省は、「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を公表した。同ガイドラインは、職場における学び・学び直しを促進するための「基本的考え方」「労使が取り組むべき事項」「公的な支援策」等を体系的に示したものである。
 具体的な内容、特色などについては、コラム「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」をご覧いただきたい。

新規追加

Column

職場における学び・学び直し促進ガイドライン


 同ガイドラインは、「Ⅰ 基本的考え方」「Ⅱ 労使が取り組むべき事項」「Ⅲ 公的な支援策」からなる。労働者に対して「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」が重要だというだけでなく、「労使の協働」の必要性が強調されている。
 「Ⅰ 基本的考え方」では、学びや学び直しの必要性が増す中、OJTの重要性を認めつつ、今後、OFF-JTや自己啓発支援を大幅に充実・強化する必要性を指摘している。また、労使が学び・学び直し支援に「協働」して取り組むことが必要で、特に、以下の点が重要だとする。

①経営者が、学び・学び直しに対する基本認識を労働者に共有すること

②現場のリーダーが、個々の労働者と学び・学び直しの方向性・目標を擦り合わせ、キャリア形成を支援することや、企業が現場のリーダーを支援すること

③キャリアコンサルタントが、労働者に助言・支援したり、現場のリーダーを支援したりすること

④労働者が、相互に学び合うこと

 「Ⅱ 労使が取り組むべき事項」では、「取組の考え方・留意点」に続き、「推奨される取組例」が具体的に示されている。
 [図表]は、ガイドラインの中の「Ⅱ 労使が取り組むべき事項」「Ⅲ 公的な支援策」の各項目、主な支援策をまとめたものである。支援策は、充実に応じて更新予定だという。

[図表]労使が取り組むべき事項に対応した公的支援策

労使が取り組むべき事項 公的な支援策

1.経営者による経営戦略・ビジョンと人材開発の方向性の提示、共有

 

2.役割の明確化と合わせた職務に必要な能力・スキル等の明確化

職業能力評価基準、職業情報提供サイト、DXリテラシー標準など

3.学ぶ意欲の向上に向けた節目ごとのキャリアの棚卸し

キャリア形成サポートセンター事業、ジョブ・カードなど

4.学び・学び直しの方向性・目標の擦り合わせ、共有

職業能力評価基準、ジョブ・カード

5.学び・学び直しの教育訓練プログラムや教育訓練機会の確保

在職者訓練、生産性向上支援訓練、リスキル講座、社会人等の学び直し情報発信ポータルサイト「マナパス」など

6.労働者が相互に学び合う環境の整備

 

7.学び・学び直しのための時間の確保

人材開発支援助成金

8.学び・学び直しのための費用の支援

人材開発支援助成金、教育訓練給付制度

9.学びが継続できるような伴走支援

キャリア形成サポートセンター事業

10.身に付けた能力・スキルを発揮することができる実践の場の提供

 

11.身に付けた能力・スキルについての適切な評価

職業能力評価基準、社内検定認定制度

12.学び・学び直しの場面における、現場のリーダーの役割と取り組み

 

13.現場のリーダーのマネジメント能力の向上・企業による支援

中小企業大学校等における研修、人材育成オンライン相談窓口

資料出所:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」(2022年)を基に筆者作成。

 「取組の考え方・留意点」として、セルフ・キャリアドックなどについて記載されているほか、「推奨される取組例」として、キャリアの棚卸しやキャリアコンサルティングが受けられる環境の整備、さらに、学び・学び直しのサポート役や、学び・学び直しの促進に当たって鍵となる現場のリーダーのサポート役としてキャリアコンサルタントが登場している。ぜひ読んでみていただきたい。

P166

(3)グッドキャリア企業アワード
 厚生労働省では、「グッドキャリア企業アワード※6」を実施して、従業員の自律的なキャリア形成支援について他の模範となる取り組みを行っている企業等を表彰し、その理念や取り組み内容、具体的な効果などを広く発信している。前身である「キャリア支援企業表彰」時代を合わせると、2021(令和3)年4月現在、受賞企業は延べ87社に上る。大企業から中小企業まで、さまざまな業種の企業が含まれており、参考とすることができる。

※6 グッドキャリア企業アワードは、2021(令和3)年度は実施されなかったが、2022(令和4)年度は、通常どおり実施される。
参考までに、「グッドキャリア企業アワード2022」の募集対象、募集期間は以下のとおりである。

・募集対象:従業員の自律的なキャリア形成(職業生活設計・働き方の実現)を支援するための取り組みを行っている企業など

・募集期間:2022(令和4)年8月22日(月)~9月30日(金)

参考文献

・厚生労働省(2022)「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」

・内閣府(2022)「経済財政運営と改革の基本方針2022」

[2022年8月25日更新]


※黄色の網掛け部分が今回の更新箇所

第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P175

4 企業のキャリア形成支援

[8]企業の人事を巡る最近のトピックスなど
(4)副業・兼業

 これを受け、厚生労働省は、2018(平成30)年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定した。併せて、モデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とした。その後、同ガイドライン、モデル就業規則は、2020(令和2)年9月に改定され、労働時間管理等についてのルールが明確化された。さらに、2022(令和4)年7月にも、ガイドラインが改定され、企業に対し、副業・兼業に関する情報の公表が推奨されることとなった。

参考文献

・厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)」

・厚生労働省「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』 Q&A(令和4年7月改定)」

P207~208

6 労働政策、労働関係法令、社会保障制度の基礎知識

[1]労働関係法制度の基礎知識
(13)女性活躍推進法および同法に関する法制度

 2019(令和元)年に改正され、

①一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大(常用労働者が301人以上の事業主→101人以上の事業主。2022[令和4]年4月1日施行)

②女性活躍に関する情報公表の強化(2020[令和2]年6月1日施行)

③特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設(2020[令和2]年6月1日施行)

等の措置が講じられた。
 さらに、2022年7月、同法の省令・告示が改正され、常用労働者301人以上の大企業には、上記②に加え、男女の賃金の差異についての情報公表が義務化されることとなった。

参考文献

・厚生労働省ホームページ「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」

P312新規追加

Column

ポータブルスキル


 ポータブルスキルとは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのことである。
 ポータブルスキルは、「仕事のし方(対課題)」と「人との関わり方(対人)」からなり、それぞれの要素は、以下のとおりとされる。

・仕事のし方:現状の把握、課題の設定、計画の立案、課題の遂行、状況への対応

・人との関わり方:社内対応、社外対応、上司対応、部下マネジメント

 厚生労働省の職業情報提供サイト『job tag』には、ポータブルスキルを測定し、それを活かせる職務、職位を提示する「ポータブルスキル見える化ツール」が用意されている。同ツールは、ミドル・シニア層のホワイトカラー職種のキャリアチェンジ、キャリア形成などでの使用を想定しているもので、キャリアコンサルタント等の支援者が、相談支援を行う際に活用することを前提としている。

※一般社団法人人材サービス産業協議会(JHR)が開発したもの

参考文献

・厚生労働省ホームページ「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」

[2022年7月28日更新]


※黄色の網掛け部分が今回の更新箇所

第1章 キャリアコンサルティングと企業人事部門

P24~25

2 企業人事とキャリアコンサルティング

 このところ、企業内のキャリアコンサルタントに熱い期待が寄せられているが、企業領域でキャリアコンサルティングはどの程度普及しているのだろうか。また、キャリアコンサルティング施策が進められる中で、企業領域には何が期待されてきたのだろうか。企業側、とりわけ企業の人事部門で働いている人たちは、キャリアコンサルティングという言葉を、どのように受け止めてきたのだろうか。さらに、企業領域で働くキャリアコンサルタントたちは、キャリアコンサルティングを行う中で何を考えてきたのだろうか。順に見ていきたい。

[1]企業におけるキャリアコンサルティングの導入状況
 厚生労働省「令和3年度 能力開発基本調査」によると、キャリアコンサルティング※1を導入している事業所は42.3%である[図表1-4]。これに対し、令和2年度中にキャリアコンサルティングを受けた労働者は10.6%である。次に、企業がキャリアコンサルティングを行う目的を見ると、多い順に①「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」、②「労働者の自己啓発を促すため」、③「労働者の希望等を踏まえ、人事管理制度を的確に運用するため」となっている[図表1-5]

※1 調査では、「キャリアに関する相談(キャリアコンサルティング:労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと)を行うしくみで、セルフ・キャリアドックをはじめ、社内規定などで明確に制度化されているものに限らず、慣行として行われるものなども含む」とされている。

 キャリアコンサルティングを行う仕組みには、制度化されておらず、慣行として行われているものも含まれているが、それでも4割程度であること、また、仕組みはあっても、実際にキャリアコンサルティングを受けたのは一部の労働者であることや、労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図ることを目的としていることなどが分かる。

[図表1-4]キャリアコンサルティングを行う仕組みの導入状況

資料出所:厚生労働省「能力開発基本調査」(2021[令和3]年度)

[図表1-5]キャリアコンサルティングを行う目的(複数回答)

資料出所:厚生労働省「能力開発基本調査」(2021[令和3]年度)

第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P156~158

Column

企業が行う教育訓練の現状(厚生労働省「令和3年度 能力開発基本調査」)


〈企業調査〉

・教育訓練費用(OFF-JT費用や自己啓発支援費用)を支出した企業は50.5%(前回50.0%

・事業内職業能力開発計画の作成を行っている企業は21.8%(前回22.5%

※事業内職業能力開発計画:事業主が、雇用する労働者の職業能力の開発および向上を段階的かつ体系的に行うことを促進するために作成する計画(作成は努力義務)

・職業能力開発推進者の選任を行っている企業は17.8%(前回19.0%

※職業能力開発推進者:事業主が雇用する労働者の職業能力開発を計画的に企画・実行し、推進する者(選任は努力義務)

・教育訓練休暇制度を導入している企業は9.7%(前回8.9%

※教育訓練休暇制度:職業に関する教育訓練を受ける労働者に与える休暇

・教育訓練短時間勤務制度を導入している企業は7.5%(前回6.8%

※教育訓練短時間勤務制度:職業に関する教育訓練を受ける労働者が活用できる短時間勤務制度

〈事業所調査〉

※前年数字の一部も修正しているが、これは、2022年4月8日に厚生労働省が公表した訂正によるものである。

・正社員に対してOFF-JTを実施した事業所は69.1%(前回68.9%)、正社員以外に実施した事業所は29.8%(前回29.2%)。一方、「OFF-JTを実施していない」とする事業所は29.5%であった

・計画的なOJTについて、正社員に対して実施した事業所は59.1%(前回56.9%)、正社員以外に対して実施した事業所は25.2%(前回22.3%

※計画的なOJT:OJTのうち、教育訓練に関する計画書などを作成して、担当者、対象者、期間、内容などを具体的に定めて、段階的・継続的に実施するもの

・能力開発や人材育成に関して、何らかの問題があるとする事業所は76.4%(前回75.0%[参考6]

・キャリアコンサルティングを行うしくみを、正社員に対して導入している事業所は41.8%(前回37.8%)、正社員以外に対して導入している事業所は29.7%(前回24.9%

[参考6]能力開発や人材育成に関する問題点の内訳(複数回答)

〈個人調査〉

○OFF-JT

・OFF-JTを受講した労働者は30.2%(前回29.9%

・雇用形態別では「正社員」(38.2%)が「正社員以外」(15.8%)より高い

・性別では「男性」(36.3%)が「女性」(23.4%)よりも高い

・最終学歴別では「中学・高等学校・中等教育学校」(23.5%)が最も低く、「大学院(理系)」(61.4%)が最も高い

○自己啓発

・自己啓発を実施した労働者は36.0%(前回32.2%

・雇用形態別では「正社員」(44.6%)が「正社員以外」(20.4%)より高い

・性別では「男性」(42.7%)が「女性」(28.1%)よりも高い

・最終学歴別では「中学・高等学校・中等教育学校」(23.9%)が最も低く、「大学院(理系)」(71.5%)が最も高い

・自己啓発を行う上で何らかの問題があるとした者は、労働者全体の「総数」では79.4%(正社員81.7%、正社員以外75.3%)であった[参考7]

[参考7]自己啓発を行う上での問題点の内訳(正社員、正社員以外、複数回答)

P255

[図表3-56]年齢階層別就業者割合(2021年)

資料出所:総務省統計局「労働力調査 基本集計・年平均」(2021年)

P318新規追加

Column

インターンシップについての考え方(三省合意)


 2022(令和4)年6月、文部科学省、厚生労働省および経済産業省は、「インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方」(以下、三省合意)を改正した。三省合意は、政府、大学等、産業界が、インターンシップの普及・推進を図る上で基本となるものである。
 1997(平成9)年9月に取りまとめられて以降、三省合意では、インターンシップは「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義され、企業は、インターンシップ実施時に得た学生の情報を採用選考活動などに使用してはいけないこととされてきた。
 リクルート就職みらい研究所の調査によると、インターンシップ実施企業、インターンシップ参加学生とも増加傾向にあるものの、期間は短期化しており、2022年卒学生を対象に対面でインターンシップを行った企業においては実施期間1日が70.9%、2日が12.4%、3日以上1週間未満が22.2%を占める。また、政府、大学等は教育目的を強調しているものの、就職・採用目的で実施されているという実態も指摘されている(亀野、2021)。
 このような中、産学の代表からなる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」は、2022(令和4)年4月に報告書を取りまとめ、インターンシップについて新たな定義を定めるとともに、一定の基準に準拠するインターンシップで得られた学生情報については採用活動開始後に活用可能とするよう、三省合意の見直しを求めていた。2022年6月の三省合意改正は、これを受けたものである。
 三省合意の改正により、企業は、2025(令和7)年以降に卒業・修了する大学生・大学院生については、一定の基準に準拠するインターンシップで得られた学生情報を、採用活動開始後に活用できることとなる。

※就業体験要件(必ず就業体験を行う。インターンシップ実施期間の半分を超える日数を職場での就業体験に充てる)や、実施期間要件(インターンシップの実施期間は、汎用的能力活用型では5日間以上、専門能力活用型では2週間以上)等。

参考文献

・リクルートキャリア・就職みらい研究所(2018)「就職白書2018-インターンシップ編」

・リクルートキャリア・就職みらい研究所(2021)「就職活動・採用活動に関する振り返り調査 データ集2021年卒」

・亀野 淳(2021)「日本における大学生のインターンシップの歴史的背景や近年の変化とその課題-「教育目的」と「就職・採用目的」の視点で」『日本労働研究雑誌』No.733, 4-15.

・採用と大学教育の未来に関する産学協議会(2022)「産学協働による 自律的なキャリア形成の推進」

・文部科学省・厚生労働省・経済産業省(2022)「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」

[2022年6月3日更新]


第3章 キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

P48~49

[図表3-1]本書で取り上げる主なキャリアの理論家とアプローチの整理表(黄色い網掛け部分が今回追加した箇所)
※クリックでPDFファイルが開きます

資料出所:筆者作成

P66

1.キャリアに関する理論

[2]キャリア発達の理論
(7)イバラ(Ibarra,H.:1961~)
 イバラについては、後掲10.[4]で説明する。

P265

10.人生の転機とキャリア

[4]イバラ(Ibarra,H.:1961~)
 組織行動学者のイバラ(2003)は、キャリアを変えるのに必要なのは「行動」であるとし、キャリア・チェンジ理論を提唱した。「なりたい自分」に向けて、「可能な自己を探り、それを試し、大きな変化のための土台をつくる、そのうえで、また、可能な自己を探る、というサイクルを回し続けることが必要だ」というのである[図表]
 彼女は、ミドル期にキャリアを変えた者を調べた結果を基に、「アイデンティティは不変のものでなく、多くの可能な自己からなるものだ」「キャリアを変えることは、アイデンティティを変えることだが、別のものに取り替えてしまうものではなく、再構築するものだ」とも述べている。さらに、再構築に当たっては、「小さな規模で試し、新しいネットワークをつくって仲間を見つけ、自分のストーリーをつくり直すのがよい」とし、問い掛け続けること、取り組み続けることの重要性についても指摘している。
 変化のスピードが速まる中で、キャリアをチェンジしていくためには、しっかり考えてから実行するよりも、試しながら考えるアプローチが有効であり、これを続けていくことが重要だというのである。

[図表]アイデンティティの転機

資料出所:Ibarra, H.(2003)Working identity: Unconventional strategies for reinventing your career. Harvard Business Press.Kindle.p.306.を基に筆者作成

引用文献

第3章
Ibarra, H. (2003). Working identity: Unconventional strategies for reinventing your career. Harvard Business Press.

参考文献

第3章
Ibarra, H. (1999). Provisional selves: Experimenting with image and identity in professional adaptation. Administrative science quarterly, 44(4), 764-791.